ミッドナイトブルー 雑感

 7編が収録された短編漫画集。
 8年間失踪した兄を慕う女性に告白するためひたむきに植物を育てる話、大学時代に好きだった先輩と偶々再会して真っ白な闇鍋を食べる話、結婚してから3年間別居しながら浮気も含めて女性の生活を全てビデオ録画する夫婦の純情物――どれもこれも粒ぞろいでした。
 ただ取り分け表題作「ミッドナイトブルー」が素晴らしかったです。個人的にはオールタイムベストクラス。
 ジャンルとしては幽霊譚。ただし別に幽霊のロジックが空前絶後とか、ストーリー展開が白眉とか、そういう訳ではありません。勿論非常に優れてはいるのですが、気に行ったのはそこだけではありません。
 幽霊というガジェットを中心に置いて、論理なんかうっちゃって、時間のずれと空間のずれを絵で示す。そしてただ只管にこの今語られる/切り取られる絵に籠められた抒情。
 ――言わば、何もかもにやられてしましました。これぞ僕の好きな漫画だっと叩きつけたい。


 さてもう少し細かく語ってみましょう。
 出だしは2003年8月=火星が15年に1度の大接近する年の、高校生のクラブ活動。天文部の男2人と女2人は火星を見上げながら、2年に1度集まる「火星観測の会」という同窓会を打ち立てます。しかし中心人物であったみのるという少女は直後交通事故で亡くなり、4人が揃うことはありえなくなります。その2年後、初回の「火星観測の会」に集まったのは当然3人の筈が、青年・暁人にのみ見られる幽霊としてみのるが紛れ込んでいた――という冒頭。
 以降2年ごとの集まりの時にだけ、みのるは3人の会に集うため、暁人の前に顔を見せるようになります。


  (P155)

 彼女が好きだったのは誰かという、ちょっとしたストーリー上の仕掛けはあるのですが、まあばればれですよねという話であります。
 ただ2年ごとに繰り返される同窓会が書かれるごとに、成長していく生きている彼らと、変わらない女子高生の幽霊のままのみのるのずれが大きくなっていきます。就職とか、恋愛とか、結婚とか。
 火星をきっかけとして生まれたという理由も当然のように形骸化していきます。


   (P170)

 ここからの畳みかけが、実に良いんですよねえ。
 かつての青い恋愛は終わりを迎え、分かち合ったCD再生機は役目を終え、彼らは彼らの生を生きていく。
 そして最後の絵/最後の光景。
 彼女はどこにいるのか――という応え。
 いやあ、いやあ、痺れる終わり方でした。
 線の細いけど上手い絵によって、あまりにも見事な締めに昇華されていました。

 
 以上。何はともあれ良い短編集でした。万人受けはしないかもしれませんが、合う人にはたまらないと思います。

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