君と目覚める幾つかの方法 雑感

 オートマタが広がった近未来。オートマタのメンテナンス業を営む主人公は店先に少女が放置されているのを見つけた。彼女の足はオートマタのものに置換されていたのだった。彼女の世話をしていくうちにとある陰謀に巻き込まれていく――


 というサスペンスADV。
 『なないろリンカネーション』『あけいろ怪奇譚』でシナリオを書かれたかずきふみさんが企画・シナリオを担当されたというので購入してみました。
 割りとNavelらしくないような暴力的な描写が多く、企画・シナリオの色が強く出ていたと思います。


 ただシナリオの出来はぼちぼちかなあという感じ。
 決して悪くはないんです。緊迫感を強めてどんでん返しを繰り返し、キャラの可愛さも出すというエロゲのサスペンス物として基本を押さえていました。
 けれどもどんでん返しでプレイヤ・サイドをマイナス面に突き落す際に、敵側の動機付けが弱いように感じました。何故主人公たちを貶めなければならなかったのかがよくわからないというのが正直なところ。
 オートマタの人とは異なる知性が人と同じ様な復讐心を抱く絶望は感じましたが、いやそこを目指したんじゃないんだろうなとは思います。
 なので突き落された絶望に対する逆転への渇望が弱くなってしまっていたので、最後の最後ここぞというところで今一つ盛り上がれませんでした。
 あとそもそも、『何故人の身体の一部がオートマタにされたのか』『どうしてオートマタが主人公らを監視するようになったのか』『異常を示したオートマタの共通点は?』などなどの出てくる謎の解決のほとんどこじんまりし過ぎでがっかりしました。


 良い所を言えば、上でも言いましたがNavelらしからぬ悪意と暴力の使い方は上手かったです。オートマタが玄関の前で立っていたシーンはちょっとびっくりしました。ただあそこまでやったなら最終章のBADエンドでは悲鳴を上げさせて残酷な余韻を感じさせるだけではなく、もっとこう色々と描きこんでほしかったですね。
 それと一番練られていたように見えた主人公の設定はかなり良かったです。生い立ちと特性に基づく、それぞれの行為と動機にははっとさせられました。視点人物が何故その行動を取っていたのか――の絵解きは心地よかったです。


 メインヒロインは3人ですが、それぞれ良かったと思います。
 とりわけ牧方初音は凄かった。足をオートマタに替えられて店の前に捨てられていた少女なのですが、序盤においてエロゲではちょっと類を見ないブラックなヒロインになっていました。出てくるだけでただ一人レイヤが全く異なる悪意の表出を体現し、序盤の雰囲気の重々しさを一手に引き受けていました。仲が良くなってからの素直さに癒されるのですが、序盤の異質さはなかなか稀で忘れにくいものがあるかと。
 

 エロシーン。
 これは諸手を上げて褒めた讃えたい部分になります。
 抜けるかどうかは棚上げし、エロシーンをヒロインとの関係性を一つ上に上げるコミュニケーションという観点から見ると非常に良く出来ていました。主人公とヒロインとの言葉と想いのレスポンスをかなり描きこんだ萌えるものになっていました。
 特にみことルートに入って1回目のエロシーンが大のお気に入り。
 ヒロインの1人・京極みことはかつて肉体関係にはあったものの告白したら「そのつもりじゃない」と振られ、数年会わなくなった幼馴染です。ただ彼女は自分の想いを素直に出すことが苦手であり、どんな相手に対してもマイナス気味なフラット対応をするのが常なのでした。そんな彼女と久々に出会い、久々にセックスするようになり、共に年を重ねて少しだけ丸くなったからこそ判ることと、かつての青い性行為で得られた経験とが交差します。それが本当に心に来る交流で。

 みっちゃんは自分の気持ちいところに当たるように、好き勝手に腰をくねらせる。
 息なんてまるであってなくて、抜けそうになったり、実際に抜けちゃうことは、一度や二度じゃない。
 そのたびにみっちゃんは――
【京極みこと】「下手くそ〜」
 ――と、いたずらに笑いながら俺を煽る。
 俺は「もうちょっとおとなしくしててよ」と言い返すけど、みっちゃんにしてみれば「そっちがあわせてよ」だ。
 けれどその言葉に従うと、不機嫌になる。
 正解は、そうじゃない。

【京極みこと】「してない、って、はぁ、……前も、言ったじゃん。そーちゃんが見ている動画みたいに、喘いだりしない、って」
【伊奈宗介】「でも、聞いたことあるよ、何回か」
【京極みこと】「お喋りはいいから、集中して」
【伊奈宗介】「はいはい」
 みっちゃんが機嫌を損ねるポイントその二。一回の行為が長引くこと。
 五分くらいで終わるのが好き。長くても十分まで。それ以上続くと飽き始める。
 だからいつも、全力疾走だ。

 面倒くさくて――その面倒をかけるに値する相方。それがとうとう手にある幸せに震えました。
 その他のエロシーンも、それぞれのヒロインと理解を深め、深まるからこそ目の当たりにするそのヒロインの魅力が増していきました。


 以上。サスペンスとしてはちょっとがっかりでしたが、エロシーンは楽しめたのでエロゲとしては及第点かと。

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