鬼滅の刃 1-12 雑感

 人を喰う異形の鬼がいた。特別な刀で頸を切り落とすか特殊な方法でしか斃せない、人間の敵であった。
 少年・竃門炭治郎は突如として鬼に家族が襲われ、妹は鬼に変化させられる。
 妹を鬼から人に戻す方法を探すため、また妹を共に居ても良い鬼であることを証明するため、炭治郎は鬼を狩る組織・鬼殺隊に入隊することになる―― 


 という感じの出だしのバトル物の漫画。
 性質と条件と限界を互いに見極めて対峙する異能アクション、上を見れば切りがない実力者と未熟な同僚が集う連隊のノリ、際立った才能がないように見える主人公が努力と人の縁で勝利し生き残っていく――何というか実にジャンプ的というか、王道を行くストリーティングです。
 そこに独特の濃いビジュアルセンスが重ねられて絵面の見栄えを際立ったものとし、また負ければ死ぬか戦闘能力を失い容赦なく物語の筋から脱落するシビアさが箍を締め、異様な面白さが生まれています。
 12巻まで進んでいますが、恐らく全体の流れとしてはまだ序盤であり、敵の全容は杳として知れません。これから更に面白くなっていく――と考えると、末恐ろしいものがあります。
 

 ……と言ったあたりを膨らませて感想を書いても良かったのですが、さておきます。
 実のところ、本作を最新巻まで読み終えて個人的に興が最も引かれたのは主人公の能力の発達具合になります。ただ、そこには凄い特別な新規性がある訳ではなし。ストーリーと同様に王道の展開です。
 しかしまあ、こういうの好きだな、大好物だなあと再確認で来たのでちろっと語ってみます。


 さて、本作の異能は基本的には呼吸方法が関与します。
(2巻)
 水・雷・獣などなど、それぞれの呼吸によって脆い人間の身体を鬼に対抗するまで引き上げます。
 そして主人公が最初に身につけるのは「水の呼吸」。水が流れるように身体と剣を流転させ、敵を削っていく術法。
 才気活発ではない主人公が不断の努力によってその技を磨き上げることで、敵の致命的な隙を糸として感じる彼独自の知覚と共に、何度も死線を潜り抜けることが出来ました。
 実は最初に主人公を助けた恩人が身に着けていたものであり、主人公にとっても読者にとっても愛着が湧く術です。


 だがしかし。
 凡人が磨いた普通の鬼を屠る並の技は、結局のところ物語の節目に立つにはお呼びではなく。
(9巻)
 段々と限界が見えてきます。


 じゃあどんな新たな目覚めが君を待つかと言えば、――彼の名が全てで。
(5巻)
 このあたり、炭治郎がこれまでとは真逆の火を思い出し、己の力としていくあたりがほんと熱いんですよ。
 凡才が努力の末に今まで死ぬほど希求した力は己に合わなかったと悟り、生まれもった才能にようやく出会う――という流れ。
 伸ばそうとした才能は残念なことに自分のものではなかったけど、自分の正しい才能を掴むためには無駄にならなかった――という段取り。
 そして新たな力はまだ自分をも燃やす諸刃であり、活かすために更に全てを費やせ、と。


 ここからどのように主人公が成長していくのか、本当にわくわくします。
 火の力に負けるのか、火と水を融合させるのか、あるいは全く新しいナニカが関わってくるのか。そしてまだあまり触れられていない、黒色に染まった刃は何を意味するのか。
 いや、続きがほんと楽しみ。

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