時の娘 雑感

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)
ジョセフィン・テイ
早川書房
売り上げランキング: 100,033

 ロンドン警視庁警部は怪我の療養中、退屈を紛らわせるために取り寄せた肖像画の中から1枚に偶々目に止めた。第一印象は良心的に過ぎる男だ、というもの。
 しかし描かれた王の名前はリチャード3世。数々の悪逆の風聞に彩られていた。
 その解離からひかれた興味を発端に、警部はリチャード3世にまつわる歴史を紐といていく――


 安楽椅子物の歴史ミステリ。
 リチャード3世が2人の小さな甥を殺したとされる事件の真相を追うのを筆頭とし、そもそもリチャード3世はどういう人間だったかを探索していきます。
 ベッドに寝ながらにして、文献を集めに集め、論理的な思考を積み重ねるだけで紙面は費やされます。過去の成書とされる文献は正しいのか、また正しい文献はどう探してくればよいのか、そして正しい文献をどう解釈するのか――その繰り返し、繰り返し。"史上最大の悪逆の犯罪の立案者でありながら、顔は偉大な裁判官のような顔をしている"とされるリチャード3世についてのデータが蓄積されていきます。
 この謎も解決も現在には全く関与しません。歴史/過去の通説をこねくり回すだけの、純なる論理的遊戯です。
 そして、それこそがミステリとしてけっこう楽しいものでした。
 文献の提示の順番は作者の恣意的が強く、フェアではありません。わかりやすいダイナミックなどんでん返しがある訳でもありません。
 しかし知識と解釈だけによって、おぼろな推測が徐々に鮮明となり、偉大な男の真なる顔が浮かび上がる――その知的遊戯の過程こそが興奮をかきたてるものでした。
 最後の作者のにやっとする顔が思い浮かぶような、えっというちょっとした脱力オチも含めて、良く出来た構成と評価したいところ。
 なるほど、これぞ古典的名作かと納得した次第です。


 以上。そこそこ面白かったです。

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時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)
ジョセフィン・テイ
早川書房
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