『装甲悪鬼村正 妖甲秘聞 鋼』感想

 本作はドラマCD『装甲悪鬼村正〜妖甲秘聞〜』を再構築して小説にした村正の外伝作品です。


 舞台は村正が初めて歴史に現れた時――帝に献上されて戦闘に初めて導入された南北朝時代。鬼才たる楠木六代目に束ねられた南朝と、才あり互いに助けあう足利兄弟に率いられた北朝との両方に一振りづつ村正が届けられた所から物語は始まります。


 そもそも当代きっての換骨奪胎の名手・鋼屋ジンによる二次創作なのですから、面白くない筈がありません。老若男女問わず武張る武将たちを、新たなる劔冑を、彼らが力をふるう戦場を、磨かれた文章と格好いい台詞をもって正しく“村正の世界”を書ききりました。


 小説としての質が保証された上で、題材/設定からして躍らずにはいられないのですから堪りません。何せ、この物語は《善悪相殺》――敵を殺し、味方を殺す――を誓う村正が勢力のほぼ等しく二分された戦争に導入されたらどうなるのかという問いへの一つの応えを意味しているのですから。このシチュエーションにこそ村正が試されるのが相応しいとさえ思えてきます。
 村正の意味を知り、独りの主将が決断できなかった南朝、二人だからこそ決断してしまった北朝――さてどうなるか。
 当然のように、状況は酸鼻をきわめます。歴史上初めて大規模に精神汚染が使われ、有象無象が殺し合い、善悪相殺され、死が量産されます。だからこそ村正の物語なのだと言えますが。
 迎える一時の結末は是非ご自分の目で読んでください。改めて、遠い未来に起こる“村正の物語”に想いを馳せることになるでしょう。


 以上。傑作でした。『村正』を楽しくプレイした人には迷わずお薦めです。

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