平凡に生きてきた女子高生・陽子が教師に怒られていた時に奇妙な青年が突然現れて忠誠を誓われた。そして彼女は妖魔に襲われながら別の世界へと連れられていった。そこで1人にされた陽子は元いた日本へ帰る手段を探すために異世界を彷徨っていく――
十二国記の1作目。
内容としては異世界転移物の本格派となるでしょうか。構築された異世界――十二国記の世界は人工的でありながら確固として活き活きとしており、そこに放り込まれた少女は血に塗れながら苛酷な旅を通して成長していきます。何も知らない少女の目を通して世界の説明されるのは理解するのにとっつき良いですし、陽子が慣れていくにつれて読者としてもその世界を真なるものとして受け入れるようになっていきました。
しかし陽子に課せられた旅は本当に辛いものでした。
人でなしに見られ、裏切られ、売られようとされ、誰も信じられず、夜は妖魔に襲われる。
序盤でパニックになり渡された剣を放り投げた時には麒麟と共においおいと突っ込みたくはなりましたが、段々とここまで追い込まれても折れないとは良くもまあ強いものだと感嘆するようになりました。
慣れない筈の剣を振るう剣士として。
それは牛に似ていた。長い毛並を纏っていて、それを呼吸と一緒に逆立てる。犬のような声で低く唸った。
驚きも恐怖も感じなかった。鼓動は速いし、息も喉を灼くようだが、それでもすでに異形のものに対する恐れが薄れていた。ジュウユウの気配に注意を向ける。身内で潮騒に似た音がする。これ以上返り血を浴びるのは嫌だな、とそんなことを暢気に考えた。
(上 P138)
ボロボロのセーラー服で身体に憑依された化け物が動かすままに剣で妖魔を斃していく姿は女子高生からかけ離れた英雄的で、新たなる道を歩む象徴的な力の形でもありました。
あるいは人として。
他人に迎合する女子高生と生きてきた末に、異世界の思考――神頼みがなく即物的で刹那的な住民との邂逅が続き、あるいは己の不安を募らせる首だけの猿も煽りも手伝い、中盤には全く他人を信じられなくなります。
そこから暖かな出会いで、そこに住む人の一部を信じられるようになり、ひいてはその世界をより受け入れられるようになり人として大きく成長を見せました。
そして最後に――王として。
彼女は麒麟に選ばれました。
その時に他の道はすべて失せ、帰る家のある女子高生ではなくなったのです。
選ぶのは王になるかどうかでは最早なく、国を救うか捨てるか、になっていました。
選択肢を前にして怖気づくのは当然で、その竦みが彼女に残された人としての最期の振る舞いになります。
その時に、
そう簡単に死にはしないと思う。わたしは往生際が悪いから」(下 P251)
と笑えたのは、それまでの異世界の出会いと彼女なりの戦いがあったからだ――というのは、見事な流離譚としての纏め方なのではないかな、と思いました。
以上。どんどんと再読していきましょう。
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