きっと、澄みわたる朝色よりも、 感想

  • 前置

 真に才ある学生を選別して芸術家を育成する夢見鳥学園に途中入学した主人公・崇笹丸はそこで幼馴染みたちと再会する。しかし強い絆で結ばれたと思っていた彼女たちは手紙をやりとりしていた与神ひよを除き、疎遠な態度を取る。笹丸は前向きにこれから再び関係を構築していこうと決意し、学園祭のクラス合同の作品作りに精力を傾けていく――


 という感じの冒頭です。ここから物語は二転三転していくのですが、随所に朱門作品特有のとんでもなく凝られた工夫が備えられていました。その工夫に関して気になった点を語ってみます。

  • 舞台

 メインの舞台となる夢見鳥学園。まず外に目をやると、学園が存在する山には秋がありません。春には桜が咲き、夏には青葉繁り、冬には雪が降るにも関わらず、秋の季節になるとただ枯れ木が立ち並ぶがらんとした風景となります。
 次いで内を見ると芸術家育成の場として極めて魅力的な学園として統一されています。広大な敷地に展開した広々とした学園の建物、落ち着いた和の作りといった外見といった住。良質な食材を用いたレベルの高いご飯を用意する学食という食。何を着ても可でありながら、制服を選ばせるセンスと学院に所属する誇りを持たせる衣。作品の材料は求めれば何でも用意され、学友は皆芸術家としての正しい誇りと素質を持っていて切磋琢磨します。そうした育成機関としての場と同時に、誰も生徒会室の場所を知らず、誰がメンバーかも判らない、謎の生徒会があるといった、おかしな面も多々あります。
 これらの場の規定には何もかもにルールがあり、全て繋がっていました。
 何故“秋”が存在しないのか。
 “秋”が揃ったらどうなるのか。
 何故芸術家育成機関なのか。
 何故生徒会の場所が知られていないのか。etc。
 それらのルールに関して具体的に触れる前に、次いで人物について触れることにします。

  • 人物

 主人公・崇笹丸。文武両道、家事万端と基本的に全方位にハイスペックだけれども、自分に自信がない鈍感なお人好しです。そして、自信がなく鈍感でお人好しになってしまったのには理由があり、眩い素質と、愚直なまでに純粋な心を歪ませた過去は悲惨なものでした。しかし、悲惨な過去と共にあるのは輝ける思い出で、その際に出会った与神ひよ、夢乃蘭、樫春告と友人になり、共に《四君子》というグループを作ったことで救われました。その思い出こそが今現在の彼を駆動する原動力となっています。
 同時にその経験は与神ひよ、夢乃蘭、樫春告たちにとっても救いとなっていて、彼女たちに取ってどういう意味を持つのかが語られる時に、彼女たちが笹丸をどう思っているのかが真に明らかとなります。
 この過去と現在との間、自分と他者との間の関係において頻繁に用いられているのはイメージの差です。過去をどう捉えるのかは人それぞれであり、自分をどう捉えるのかも人それぞれであり、――それぞれであるからこそまるで見事に異なることになります。主人公の自身への自信のなさと周囲の信頼の誤差という題材はよくあるといえばあるのですが、理由付けまで丁寧に設定されていましたし、キャラクタの視点を変えての描き方も巧みでした。終盤でとあるヒロインの視点でこう語られます。

 やり方は拙く、未熟で、機敏とは程遠かったけれど。 


 彼は真っ直ぐだった。
 彼は純粋だった。
 彼はいつだって本気だった。


 彼は誰よりも真剣に自分たちの事を想ってくれていた――

 つまりは絆。彼らの絆は確かに成立して、形となっていました。


 笹丸個人についてもう少し触れれば、頭毛――より端的に言えばハゲを気にしているのが新しかったなあと。ひよに頭の毛を洗ってもらう時のきょどり様は泣けました。抜けとかハゲとか白髪とか危険ワードが乱舞して、最後の落ちがこうです。

【ひよ】「……あの」
【笹丸】「ん?」
【ひよ】「わたくしは、その……だんなさまの髪が薄いなどと、思っておりませんから」

 こう、慰めているんだろうけど、触れられたくないんすよね。や、私はまだ頭髪を気にする年代ではないので気持ちは想像するだけですが、きっと優しくて気立ての良い彼女であろうとも、そこにフォローは要らないんじゃないかと。想像ですが。

 
 ヒロインに関してはどこまでをヒロインというかでネタバレになるので言いたくはないのですが、言ってしまえば与神ひよが一人頭抜け出た存在になっています。これはプレイすれば判るのですが、だんなさまという呼称、鈍感な主人公には判らない好感度マックスの態度、気づかれないのを心がけて世話をすることに意味を見出す真の献身etc、彼女と結ばれない理由がないので、彼女が物語のメインとなるのに違和感はないでしょう。逆に彼女を選ばない違和感がとある方式で語られるのですが……、そこらへんはプレイしてのお楽しみということで。
 というか、一見面白みがない完璧キャラに見えるひよなのですが、一皮剥けばえらい可愛いです。笹丸は緊張すると雑学を思い出す「330(ささまる)タイム」が特技であり、人文学系に博識なのですが、付いていくための苦労が実に愛らしい。

 春告とアララギの指摘通り――走り出したひよは、学園に到着するとそのまま図書館に飛び込んだ。
【ひよ】(出雲勢力の行政地説? ヤマト王権畿内説? いけない、わからない!)
【ひよ】(こんな事では、だんなさまの話題についていけない! 退屈させてしまう!)

 ……文字に起こすとあれですが、学園での生活を通して、密かに恋する乙女の姿を堪能できます。その彼女の努力に気づく時、鈍感ではいられなくなった時に笹丸とひよの関係は完成する――のですが、それもまたプレイして見届けてください。
 しかしそれにしても、ハイスペックな性能を持つヒロインが「だんなさま」と主人公を呼んで献身するというのはきっと手癖なんでしょうね……。まあ、そういう男女関係もロマンがあって良いことです。
 

 他の登場人物たちもちょい出の脇役に収まりません。一癖もふた癖もあります。いきなり変なあだ名を付けられる双子の姉妹、テンプレのような不良、テンプレのような気弱な優等生etcが、練られた伏線によって裏が語られ、ファーストインプレッションとは全く異なる印象へと着地します。

  • 言葉―文字

 これまでに場と人物について触れてきました。上げてきたように、それぞれにルールがあり、謎があります。それらを司り、また言ほぐのが言葉――より正解に近く言えば文字、です。物語における文字の強度が朱門作品の真骨頂と考えているのですが、本作においても存分に発揮されていました。冒頭で工夫と述べたのは伏線と回収の美しさと共に、この物語全般への文字の支配を指しています。
 例えば、“秋”。
 例えば、“紅葉”。
 例えば名前の意味。
 或いは呼称の変更。主人公の呼び方は呼ぶ人間の想いによってゲーム内で常に変化し、呼び方によって想いを表象に出されることになります。
 こうした文字と現象との在り方が怒涛のように明らかになる場面の知る快楽は素晴らしいものがありました。加えて、背景や立ち絵、イベントCGに対しての絵解きも加わるのですから、絶品です。

  • 絵―映像

 CGは美麗でした。どのヒロインも特徴が出て可愛かったですし、背景も緻密でした。
 それに今回、OPムービーがかなり良く出来ていました。筆遣い、色遣いが息吹くようで、作品にこれ以上ないほど合っていました。

  • エロ

 期待する作品ではないですし、確かに薄いです。
 そう、質も量も無茶苦茶薄いのですが、実の所、ひとつだけかなりイケてるシーンがありました。主人公が朝まだ寝ていて朝勃ちしているという、ありきたりな導入なのですが、3人のヒロインが踏み込んできてあらぬ方向へ突っ走っていきます。オヤジ系の春告がひよに対しての処理するのも役目だと煽るだけ煽って、ギャグで済ますつもりが済まなくなるというもの。つまり――ひよは脱がせます。

【ひよ】「えいっ!」
【ひよ】「…………」
アララギ】「…………」
【春告】「…………」
【ひよ】「っ……こ、これが……」
アララギ】「……すごい。なんか、“ぶるんっ”って感じだった」
【春告】「いや―、え―? いや―、えええ―?」

 レベル高い声芸でお披露目を見たシーンが語られ、主人公の性器をつつくヒロイン、すぐそばでマジマジと或いは大きく開かれた指の隙間から見るヒロイン2人。カオスな光景です。そこからも2人が見守る前で、2人を気にせず咥えるなどカオスが続き、そして。

【春告】「うっ、うわ――――! 顔射の瞬間見ちゃった!!」

 もう、笑えば良いのか、勃てば良いのか。
 や、ぶっちゃけ、ここだけ非常に興奮しました。もうびんびんに。ヒロインが他のヒロインの前で加えるのも、寝ている間にヒロインたちに露出して爆発(本文表現)まで行くのも素晴らしかったし、爆発してからの精液の行方も完璧でした。このシーンを見られただけでエロ的に満足です。

  • まとめ

 以上。たらたらと語ってきましたが、何時もの朱門作品――と一言言っておけば今まで数作プレイしたり小説を読んだりした方には判ってしまうでしょう。
 何はともあれ、傑作ということで。

  • Link

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