新選組血風録 雑感

 司馬遼太郎による新選組にまつわる短編小説集。
 『燃えよ剣』を読んだ勢いで読み進めたのですが、これまた面白いことこの上なく。切れ味良い時代小説の短編として、また『燃えよ剣』のサブテキストとして大いに楽しめました。
 やっぱり外にも内にも粛清に明け暮れた新選組なので組内の御法度沙汰や入り込んだ間者にまつわる血生臭い無常な話が基本です。最期にはわりかしさくっと斬り、すぱっと斬られ、武士の命ははかなく終わっていきます。そのはざまに近藤勇の愛刀にまつわるとぼけた話(『虎徹』)もあり、沖田総司のなんとも切ない初恋あり(『沖田総司の恋』)、と次はどんな内容の短編がくるのか読み進める手が止まりませんでした。
 それに内容に加えて、文章自体もいいんですよこれが。これは司馬遼に限らず出来の良い時代小説はさらっとした文章で異様に格好良い描写をかっ飛ばす作品が多いイメージがあるんですよね。
 例えば斎藤一が薩摩に寝返ろうとした武田観柳斎を斬るために月夜の道に共に向かわんとして曰く、

 屯営の長屋門を出ると、東山の方角にみごとな月がかかっていた。
 小者が、提灯をさし出す。斎藤が、
「要るまい」
 と、武田に微笑いかけた。
 武田も、さすがにしぶい顔をして、
「要らぬだろう」
 と、歩きはじめた。
  (司馬遼太郎.新選組血風録 〈改版〉(中公文庫)(pp.186-187))

 決めたいシーンで短い文章ですっと決める――今更ですが文章自体のファンになってしまったなあという感じです。や、まだまだ隆慶一郎の作品の方が好きなんですねが!(よくわからないアピール


 以上。色々と買い込んであるので司馬遼作品はどんどこ読んでいきます。

  • Link