飛び立つ君の背を見上げる 雑感

 『響け! ユーフォニアム』のスピンオフ小説で、中川夏紀視点で3人の同級生――吉川 優子、鎧塚 みぞれ、傘木 希美――とのエピソードが語られます。

 まずこのシリーズはアニメ経由で決意の最終楽章前編が刊行された頃に原作小説に手を伸ばしました。入学し、部活に燃え、上級生に憧れ、同級生と仲を深め、下級生が出来て指導する立場となり卒業していく3年間、時には恋をしたり、時には反目したり、全てが輝ける高校生の瞬間――部活青春物としてこよなく愛する作品となっています。
 そして数多の少女や少年が出てくる作品で遊ぶ方法の一つにカップリングで一喜一憂することがあります。それは作者が意図したものだったり、意図しないように見えたりするものだったり、些細な描写から妄想するものだったりします。
 個人的にメインパートでぞっこんな関係は『くみれい』で違いありません。楽器が違うと言えども高いレベルで切磋して演奏したいという欲と、あと距離が近いイチャイチャと、比翼がやがて未来を見据えたのと新たな上手い演奏者が混じることですこしずれていく心の痛みと独占欲の発露と、ごちゃごちゃして一言で言いきれない吹奏楽部の熱い熱い3年間の象徴のような2人。
 ただメインで語られるのだけではなく、この密かな2人の関係ヨイよね・・・と腕組みしてアホ面で頷いて推すマイイチオシは『みぞくみ』一択。久美子が1年時の合宿の時、夜にみぞれと偶々出会って語り合ったというエピソードがあるんですね。でもそれだけでそれ以降はそこまで仲が深くなるわけではないのですが、その翌年の合宿の時また会えるんじゃないかと夜に一人でみぞれがまっているんですよ! ああ、これぞみぞくみ!!! 

 いけません、前置きが長くなりました。
 『飛び立つ君の背を見上げる』の感想ですが、素晴らしかったと諸手を挙げて褒めたたえたいところ。
 夏紀が考えていたこと――久美子視点が多かったからこそ、ちょっとひねてきつそうだけど実は優しい先輩がどう考えてそう振る舞っていたのか、あるいは後輩との触れ合いや部活での立ち位置をどう思っていたのかという、怖くて見たい答え合わせ。
 そしてこちらが主ですが、本編と短編で漏れ見えた2年次4人――優子、みぞれ、希美、夏紀――のエピソードが何も隠さず剛速球で投げられてきます。

 例えば夏紀が希美を大好きそうなのは本編で伝わって来たのですが、この作品で具体的な感情と共に好きさが如実に見せられます。
 夏紀もまた希美に共に音楽をしようと誘わた、始まりの風景。

吹奏楽部、一緒に入らへん?」
 明るい声だった。相手が承諾することを微塵も期待しない、ただ自分の希望だけを一方的に乗せた声。
「なんでうち?」
「夏紀と一緒だったら楽しいかなって思って」
  (飛び立つ君の背を見上げる響け!ユーフォニアム(Kindleの位置No.496-498))

 或いは、希美が心折れた時に、彼女の輝きに嘗て憧れて今なお好ましく想う夏紀がどう声をかけて、どんな"後悔"を得たのか。
 
 或いは優子との腐れ縁。
 或いは希美派だからこそ見せる、みぞれへの屈託――。
 夏紀たちの大切な記憶を、惜しげもなく披露してもらったことへは感謝の念しかありません。


 以上。大好きと叫びたい素晴らしい小説でした。

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