レビウス 1感想

 人の機械化が成し遂げられ、新生暦という暦の元に動く未来。そこでは機械化された人間同士が闘う"機関拳闘"は世界で莫大な人気を誇っていた。機関拳闘の選手の1人に、機械の右手を揮い、下位ではありながら無敗を誇る少年がいた――という感じの内容。わりとチープな設定でチープな枠組みなのですが、出来上がった『コミック』は物が違いました。
(P124)
 繊細ですが絵が抜群に上手く、加えてのっぺりとした絵でなくストーリーを内包した漫画としての描写も巧み。まずもって絵とお話を眼で楽しむ、読む快楽が生まれていました。
 この絵だけでもお釣りがくるのですが、チープな設定に込められたお話のロマンさが凄かったです。よくぞここまでというぐらいに練り上げられた、傷ついた少年の伽藍となっていました。


 第一に少年の才能の発露。少年がどのように強く、どのよう甘いのかという、その外枠が露わになります。
 (P44-45)
 老獪で戦巧者で、また後がない燃え尽きる前の最後の輝きを見せる対戦相手。最後でなければ圧倒的な才能の踝までも届かなかった終わりを前に、少年・レビウスは無慈悲に闘います。何故あのように試合を極めなくてはならなかったのかという想いに想像を馳せるとともに、暴力を目にして暴走ではないと理解するトレーナの叔父との関係性もまた確かに読み取れます。単に1回の戦闘で何層にも凝集されて情報が伝わってくる良い導入でした。「レビウス 1」 | IKKI COMIX | 小学館でここまでは無料で公開されているので、興味があればぜひとも読んでください。


 次に少年と才能の出会い。或いは少年の歪みについて。
 戦争で右腕が機械化して母親が危篤となり、少年は生まれながらに持っていた大事なものを亡くして、戦争が終わった平穏な街へと戻ります。浮き上がる契機となったのは人間味あふれた叔父との出会いと、『夢』。この夢が曲者というか、恐らく物語の中核をなし、お話を進める推進力ともなっていました。『夢』は未来予知でもありお触れのようでもあり、少年は未来にコロシアムで機関拳闘をしながら母に見守られている己の姿を幻視します。現実に戻った先には管に繋がれて何とか生命だけを維持する母の姿で。
 だから。

"モノが違う"
 (P120)

 そうしてレビウスは決められていたかのように何気なく才能に出会ってしまい、無敗の道を歩き始めます。戦い方もまた独特で、機械化した腕は本来ならば作り直すところを生来の神経を通わせて使います。
(P126)
 この受けに行く痛みもまた『夢』の達成の一つでもあるのですが。
 ここらへんも、そうかそうくるのかと、戦い方一つとってもぞくぞくと来る歪み様でした。


 そして最大の敵。
(P187)
 これまた無敗の、徹底した暴力を有するヒールと戦うことになり、レビウスはまず乗り越えるべき最大の敵に出会います。このヒールも大金持ちの御曹司が好き勝手やっていると思いきや、お手本となるべくヒールがいたり、そのお手本に近づくべく努力を積み重ねていたというバックボーンが語られ、一気にキャラの魅力が増しました。こういうキャラなのかという理解により、レビウスが力で勝る彼とどう闘うのか、不断の努力により見事に作られたヒールを相手してどのような答え<勝敗>を出すのか、彼らの戦闘への期待がいや増していきます。
 ――まあでも、敵方の昔ばなしって負けフラグですよねー、と。
 そして、ド派手に"最大の敵"に出会う。
 大見得に大見得を切った、素晴らしい引きでした。


 以上、そんなこんなで何処にも瑕疵がない、完璧なら傷ついた少年のお話なのでした。1巻だけでも傑作なので、迷わずお薦めする逸品。続きが待ち遠しい作品がまた一つ増えた幸せをかみしめています。

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レビウス 1 (IKKI COMIX)
レビウス 1 (IKKI COMIX)
posted with amazlet at 14.02.16
中田 春彌
小学館 (2014-01-30)