虚構推理短編集 岩永琴子の純真 雑感

 一つ目一つ足のおひいさま・岩永琴子が妖怪から持ち込まれる謎を解決するミステリの短編集。
 相変わらず異常で道理が通るロジックの使い方が上手く、だからこの作者の作品は好きなんだと惚れ直しました。

 とにもかくにも末尾に収録された「雪女を斬る」が最高に素晴らしかったのです。
 これまでにも「雨の日も神様と相撲を」で蛙ならではの相撲の決まり手を作り出そうとした実績があるのですが、当短編では合理を非常に重んじて如何なる技も体系・言語化される剣術において唯一解き明かされていない秘剣が設定されます。

「そして白倉半兵衛はとある峠で妖怪の雪女と遭遇し、それを斬ることによってこの『しずり雪』に開眼したと伝えられています」
 明瞭が旗印といった剣術に雪女という怪しげなものがいきなり入り込んだ。それも流派の完成のきっかけという深いところに。
「そのため無偏流と雪女は切り離せないものとなったんです」
  (城平京.虚構推理短編集 岩永琴子の純真(講談社タイガ)(Kindleの位置No.2299-2302))

 雪女を斬って開眼された秘剣だけでもわくわくするのですが、この斬られた雪女というのが氷の刀を使って刀を持つ者だけを辻斬りする雪女という何それという存在なのも堪りません。
 雪女とのいざ尋常の斬り合いの妙、そして開祖以来の秘剣に開眼した最強の侍が40歳の時に斬られたのは誰によるのか――という事件の解決が意味する物の感動。 
 これぞ城平ミステリという感じで大好きです。

 あとは巻頭の雪女と存在証明があるおかげで逆にアリバイを主張できない女運の悪い男を書いた「雪女のジレンマ」は、雪女がヒロインとして良い味を出していたり周囲の人間が悉く自分にとって悪いように動く運の悪さに笑うしかないとか、かなり面白かったですね。


 以上。快作、お薦め。
 なお実はこの作品の漫画を読んだことがないので読むべきか悩み中です。

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 <既巻感想>
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