マジスキ 感想

  • 1.初めに

 何よりもまず、素晴らしい出だしに感動しました。
 時系列も人物関係も訳の解らない状況を羅列しながら、切れがよいため見事に気をひく畳み掛けになっています。そして作品内人物にとって偶然・運命に見える事象を起こしつつ、計画されたかのような操作された裏を探りたくなる、妙にわくわくした感覚。あした出逢った少女を彷彿させる、これぞ呉シナリオに求めている技だと思い出しました。
 

  新学年のクラスの雰囲気が学生として適度に荒んでいて適度に烏合の衆で、先生がまとも社会人であり、妙に萌えゲ離れしていました。ただそれは今までの呉シナリオでも集団心理の生成のいがかわしさと変遷の軽々しさが書かれていましたし、辺縁の設定としては当然なのかもしれません。そのことで主人公とヒロインたちの結びつきが強くなり、他の集団との孤立が深まることとなります。また異世界と現世界を行き来する方法や影響が大きく物語を左右します。(※なおこのゲームの異世界北欧神話のタームを用いて設定されています。どう対応しているのか調べてみるのも楽しいのかもしれません)
 そうした人物関係、象徴などが同じテーマの元に設計されたのは間違いないでしょう。
 何しろ、このゲームの題名はMarginal Skip。あまりにもあからさまな比喩となっています。
 今までの呉シナリオでは主人公たちのエゴの淵が際立つ内容でしたが、その淵を超えると宣言するかのようであり、実際にそのようなシナリオがほとんどとなっています。にも拘らずかしこで打ち捨てられる者たちへの息をするような冷酷さは健在であり、また悪意の表出とあっけないともいえる解決もあり、集大成と言って良い作品になっています。


 ここから呉シナリオ全体を語る更に突っ込んだ話はいずれまた。今回は以上にして各論に行きます。



  • 2.各論

2-1 ヒロイン毎
 推奨攻略順は、設定の露呈具合や面白さから鑑みるに、かなでor冬子→ニースorシェーラ→由紀菜。どのルートにもセットになるヒロインがいて、恋の鞘当をしたり、メインイベントの論理の先見せや対比となっています。


 かなで。病弱な妹系キャラ。
 かなでの奇妙な病態の理由と主人公の能力の関係は考えられていました。また予知も良い具合に働いていて、燃え的に言えば「少年よ、君の切望――殺意は叶えられる」といった感じにテンションが高まります。しかし魔法発現エフェクトのセンスがなく、大見えを切る派手なシーンでぐんにょりしましたがー。
 他は特筆すべきことがなく、初Hシーンの前に繰り返しギャグを入れるのはどうかととかHシーン導入のバリエーションにはそこはかとなく和んだぐらいでしょうか。
 なお小町というサブキャラがあて馬にされるのですが、真っ当な恋する乙女で破れるには惜しいヒロインでした。


 冬子。アイドル歌手をやっているお姉さんキャラ。
 触手エロ!凌辱ルート! とか脊髄反射したのは兎も角も、ストーカーの処理がそれはないを振り切りそうなやや非凡なもの(下級生のストーカーがはねたのはプロのパパラッチが出てきたため)で、落ちが青春真っ盛りな殴り合いで解決するに至り色々なものを振り切って終わってしまいます。概して一般より障害低めのアイドル系シナリオでした……半分まで。
 過去の話に焦点が移動した時、罪と許しの反転の綺麗さに見惚れました。主人公は冬子にとある負い目を持っているのですが、既に彼女から許されておりフラッシュバック時に苦悩が漏れ出るだけのはずでした。だがしかし罪が許された手続きに決定的な不備があり、許されないままにあり、その絆の不信に繋がりうる苦悩は正しかった――となります。
 以降の解決が面白いかはともかく、その提示は興味深かったです。


 ニース。まず魅力的な謎が提示されます。

 飼育していた兎が何処かに消えてしまったが数日後に再び飼育小屋に現れてことなきをえた。にも関わらず何故、ニースは未だに兎を探すのだろうか?

 そして提示された解答のセンスが凄まじかった。これはないという世界の理と雰囲気をぶち壊すためのデザインとCGを余裕で繰り出し、美しい答といがかわしいネーミングが両立してしまいました。ニースの魔法や解消する状況がロジカルな分、余計に正しいからこその目眩がありましたねー。ネタバレギリギリを言うと、DC2ミート歪曲王みたいなっ。
 そしてロジカルに設定された魔法は必然として群衆からの悪意、悪意の解決による喪失、喪失による絶望という流れを引き起こします。この最後の絶望が魅力的なので、もう少しねちっこくやってもらっても歓迎だったのですが、まあ適量でしょう。
 なお、ルート序盤の使い魔トスクのイベントは伏線=ロジックの先見せとして効果的に機能していました。


 シェーラ。王道を行き、意に染まぬ結婚を強いられる少女のために頑張る男の子の話。頑張っても頑張っても駄目で泣く心意気が嬉しく、応援したくなりました。だからこそ切望した力を勝ち得た瞬間の歓喜にシンクロ出来ました。
 ここで達成によって起こった群衆からの悪意にはおっと思いました。熱意への水の差し方、受け入れるのと同じくらいに早い掌の返し方とぐっとくる悪意だったのですが、あっさりと解決し肩すかしされたのは不満でしたね。
 それで魔法をばんばん使って戦う展開になるのですが、詠唱と発動のエフェクトのセンスのなさはFate以降と考えると目眩がするぐらいでしたが、まあそこを評価するゲームでもないので少しでも動かした心意気を買いましょう。
 深くかかわってくるサブキャラに関しては全然釈然としないのでFDによる補完を望みます。


 由紀菜。どこにあるかわからないけれど必ず自分に宛てられて鳴る電話を捜し求めているという謎を筆頭に、魔法が存在する世界にも関わらず現実が徐々にスーパーナチュラルに変容する衝撃を書けていました。
 そして――

 「まだ分からない? じゃあ、こう訊いてあげましょうか?」

 語られる真実。
 時系列が天才というか、何と言うごちゃごちゃした悲劇、素晴らしい!
 今時珍しい、まともに捻られた嬉しくなるような時間SFでした。
 このルートだけは質的に群を抜いているため、他をおいてもプレイする価値があります。




2-2 その他
 細かいことを言うとモブの会話文で名前の後ろにモブと出て来る(例:生徒・モブ)のはどうなのかと甚だ疑問でした。
 またOHPでも攻略ヒロインと非攻略ヒロインを明らかにしているのですが、ゲーム内で一人称視点が移り、在り方が明確になる冷酷さは堪らないものがありました。ヒロインはHeroine。そしてヒロインに選ばれなかった少女は――other。特に小町は振られた後に改めてレッテルが貼られます。
 この2つのルールはゲーム内の人間関係を峻別するものであり、ゲーム=世界の名前であるmarginal Skipの意味を深めているように感じました。特権性が与えられたキャラと、与えられなかったキャラとが、境界線を越えて邂逅した時に惹起される反応を書きうることを示した、と。そこには中心と辺縁とが動かしがたいにも関わらず、相互作用のダイナミズムに富む関係性=ゲーム内仮想社会を築きうる可能性があるように妄想しました。


 文字色の変化の規則性は判りませんでした。主人公視点で主人公が知らない固有名詞が緑色にならなかった(例:ゲシュタルト崩壊)など細工はありそうなんですが踏み込めませんでした。他の方の考察を漁ってみます。
 BadEndで現れる「お客様」に意味があるのかないのかという疑心暗鬼に陥りましたが、恐らくないでしょう。


 エロはシナリオ上何時でも切り取りOKの位置付けにありますが、一通りの衣装でそれなりに長くこなして残精もしますし描写はなおざりにはされていません。所々で導入に笑いがあるのも良い傾向と取りました。


 絵と音楽は趣味に合わせて好き嫌いどうぞ。


 システムは「ここがすごい」で推しているように立ち絵は動くし、エフェクトも派手になっています。が、如何せん活用されておらず、ゲームには然したる影響を及ぼしていませんでした。
 具体的にはシナリオごとの感想の随所で述べたように魔法描写は見せ方が凡庸であり、加えてテキスト・音楽との連動がぎこちなく、浮ついていました。また背景のテレビの、しかも傾いている画面に違和感なくClearのOPやPVを流した努力は多いに買いますが、どうでもいいというか、うん、ひっくるめて言えば、センスがないかと。
 肩に鳥が乗っている立ち絵と鳥のみの立ち絵を出すという凡ミスじゃ信じがたいものがありました。



 以上。改めて強調しますが由紀菜ルートは傑作ですので必見。他のシナリオも悪くはないですし、gift以降の舵取りが徐々に実を結びつつあるのが判る現時点での集大成であり、呉シナリオファンとしては嬉しい限りでした。シナリオ・システム共に今後なお一層洗練されることを期待しています。



  • 3.Link

 OHP−moonstone


 

  • 4.小ネタ

 かなでルート:凶夢など30;星新一が新潮社文庫から出版した短編集