ハロー、ジーニアス 感想

 学園都市の学生は所属する団体での活動により校貨が支給され、それで生活するようになっていた。第三学園都市に所属する竹原高行は高跳びのエースだったが、故障により跳べなくなり、陸上部をやめざるをえなかった。そしてフリーになろうとしていた時に海竜王寺八葉という少女に第二科学部に誘われる。彼女は30年前から出現し始め技術レベルの進化を推し進めた並外れた天才の人種、ジーニアスだった――


 という冒頭。それから彼女のとある実験を手伝わされて騒がしい日々を過ごしていくというように進んでいきます。
 その日常においてメインとなっているのは海竜王寺八葉というジーニアスの少女とのコミュニケーションを通じた理解です。海竜王寺が魅力のある人物に造形されえたこそ、彼女を判っていく過程もまた魅力のあるものとなっていました。
 彼女の魅力はジーニアスという最早人類とは別の種族の存在としての側面と、不安定でありきたりな少女の側面の融け様にありました。
 ジーニアスとしては、折りにふれた日常会話で頭の良さと、例えば強制的に集中力を惹起させる物語は平凡なライトノベルというような訳の分からない異能力とを見せつけます。にも関わらず実はまだ本当のジーニアスではないのが物語の根幹に関わってくるのですが、それは追々。
 少女としては理知的だが純真かつ無防備な性質をしています。例えば掃除の時に何も考えずに若々しい体を存分に押し付けてきたり、或いは主人公が寝ていると大腿を熱心に撫で回したりと、おっぱいの下に汗疹が出来ていると報告したりと、肉体的にかなり無防備です。生々しさエロさはありませが、良いことです。あとは海の生き物がことさら好きで、設備の整った水族館ではしゃいだり、寝間着に生々しいアンコウを着ていたりします。俗に言う理系女子の理想型のひとつみたいな?
 そこにジーニアスの能力を振るってもいいのか悩む繊細な面が加わります。

「僕は負けず嫌いなんだ」
 海竜王寺は最後にこう付け加えた。
「そのくせ僕は、世界を変える勇気がない」
 (P210)

 こうして読んでいく内に海竜王寺八葉――ジーニアスの少女の多面性とチャームポイントが嫌味なくきちんと伝わってきました。
 あとの他の設定や展開自体はぼちぼちです。続いていくことも出来るかなという強度の世界観はあったんじゃないかと。兎も角、主役たる少女の造形が頭ひとつ飛び出て良く出来ていたので、それで十分です。


 文章は文体には強い癖はありませんが、出てくる本の固有名詞が多かったのが特色でしょうか。会話文が伊坂フォロー世代的というか、やや文章が整いすぎで演技過剰で若干違和感を覚えましたが、まあ慣れでしょう。常人から見た突飛ではない天才を書こう書こうとしている努力が見受けられましたし、総じて好感が持てました。


 以上。それなりに面白かったです。

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