神狩り2 感想

 山田正紀氏の小説に対する私の印象は第一に無闇に格好良いというもの。かの有名な『神狩り』の《古代文字》の設定――“二つしか論理記号を持たず、しかも関係代名詞が一三重以上に組み合わさっている”、或いは『神狩り』『弥勒戦争』『神々の埋葬』の圧倒的な存在=神への抗いと失墜と克服の積み重ね、或いは『謀殺のチェス・ゲーム』を筆頭とするハードボイルドetc、作品の良さを挙げて言ったら切りがありません。
 単純に言って仕舞えば、書く文章が格好良く、書かれる内容が格好良い。
 そうした文章に翻弄され、イマジネーションにぶっ飛ばされ、破格の読書経験となるのが山田正紀氏の小説を読むという行為です。
 付け加えるなら、時として全体の完成度は兎も角として、となりますが。速度とイメージを優先するからか、全体の整合性を保ったオチを付けるとか、とどの詰まりまで書くとか、どのキャラクタも活かすようにするとか、そういう十善たる小説として形を整えるのを時折――もしくはしばしば度外視されているように見えます。
 まあ、そういうあたりも好きなんですが。

 
 さて、本作は題名通りデビュー作『神狩り』の続編となっています。前作の5倍以上のボリュームを有し、実に30年ぶりに満を持して出版されました。
 本作を読み始めた第一印象は矢張り、どうしようもなく格好良いというメロメロなものでした。だって、

 怪物めいた天使の姿が滑走路に降り立ってそこに立ちはだかった。そして天を仰いで咆哮した。その長大な翼の羽ばたきに風が捲きおこって、滑走路を舐めて走った。
 (中略)
 たちのぼる闇のなかに炎の十字架がくっきり刻印された。めらめらと燃えあがる。そこには天使がいて、十字架があり、
 しかし――
 “神”だけがいない
  (P69)

 という文章に興奮しない筈がなく。翼を生やして飛ぶ存在として考えられた異形の姿である天使が空を飛び、管制塔を壊す――ただ、それだけの行為を描写しているだけなのに、どうしようもなく胸が熱くなります。今凄いものを読んでいると、心が沸き立ちます。
 更には1933年ドイツの地図になく名もない街の打ち捨てられた教会の地下での事。heidegangerisch/荒野を独り歩く者と名乗る男と、顔を隠したナチスの高官とが肩を並べて、檻の中で少年のような少女のような獣のような何かを前に強制的に脳にモジュールが生成され、眩暈する歪んだ真実を得ます。そして何かは歌いながら貝殻骨が隆起させます。その禍々しい幻想の絵のイマジネーションはとんでもないものでした。
 そしてキーとなる脳のモジュール生成、或いは発火――異常発火《バースト》。《神》の複数の名を、海馬の虚血への耐性のなさを、解剖上の一連の流れを、神のアリバイ作りと喝破した先にある進化は認知の在り方の変容でした。その進化と、進化が起こった人間の精神の変貌の筆致も流石でした。
 そして前作とリンクし、文系的に最新の脳科学を駆使して神へと至り、さあ神との戦いが始まる、という所で盛大に肩透かしを食らいます。や、ページ数が残り少ないし、どうかなーと思ったんですが、どうにもならないというか、未だ戦いの描写自体には至らずという感じでした。前作では神との戦いに挑む背中を見送り決意だけで終わるのに対して、本作では神との戦いに立った姿の描写へとたどり着いただけでも多大な進歩なのかもしれませんし、神の前に立つ姿は格好良かったです。
 しかし、『神狩り』『弥勒戦争』でも思ったように、先が見たかったと思わざるを得ませんでした。だから、次は――


 以上。歪つですが、だからこそ傑作です。お薦め。

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