WWZ 雑感

 映画から先に入ってこの原作を読んだ訳なのですが、あまりの面白さにびっくりしました。
 ゾンビの定義とは何ぞやという話になれば、1.動く死体のため活動停止させにくい不死性、2.本能的でありコミュニケーションできない異種性、3.生きている人間を襲う攻撃性、4.噛まれると同様にゾンビになる感染性などが上がるでしょうか。本作ではゾンビの存在を前提に、つまりはヴードゥーの司祭とかマッドサイエンティストとか明確な黒幕/原因をブラックボックスに入れ、ゾンビがもしもこの地球に現れたらどうなるのかを書いています。
 本作はそうしたゾンビが地球に現れたシチュエーションを突き詰めたシミュレーション物の傑作でした。
 現代でパンデミックになる方法は? ――陸海空あらゆる方法をとってグローバルに広がる難民とか、どこから入手したかわからない臓器からの杜撰な臓器移植とか、ありえる。
 国々の基盤が揺るがされかけたらどうする? アメリカは最後までアメリカであろうとし、中国は上層部が自らの地位にしがみつき、北朝鮮は完璧に鎖国し、インドとパキスタンは対立の末自滅する。
 他にも、ゾンビは海とか砂漠などの環境ではどうなるとか、人間は人間に似た人間に異なるものに追い詰められたらどうなるのかとか、あるいは――どのようにゾンビと人間を区別するのかとか、様々なシチュエーションに言及します。そして、島で、山で、砂漠で、極寒で、深海で、宇宙でなどの地理的な条件や、城で、街でなどの建築上の条件や、民主主義、共産主義独裁国家などの社会的な条件や、軍人、商人、孤児、オタクなどの個人の条件や、最先端の武器、近代的な武器、原始的な武器といったゾンビに対抗する条件まで、ありとあらゆる条件がゾンビに相対し、条件に基づいた応えが書き込まれます。
 それを精緻に、エンタメ的に書くのだから、読んでいて興奮しないはずがありません。精緻という点ではたとえば城にこもっての応戦一つとっても、この地域ではこの作りでこの気質だったから駄目だったが、別の地域では成功して何年も生き延びたとか、条件付けを細かくしてさらりと結果を書き込みます。このさらりとした書き具合が、戦後のレポート形式という方法に合ってましたし、おうおう何があったんだと興味を掻き立てる要素になっていました。エンタメ的では、最先端の軍隊がゾンビに敗北するシーンや、ゾンビがうようよする地域に墜落した女パイロットのサバイバルシーン、そして最終決戦など、絵になって素直に盛り上がる場面が散りばめられています。
 ただまあエンタメ的に書いてありますし、これはあくまでエンタメ作品ではあるのですが、日本のオタクが偶々ニホントウを手に入れて森をさまよっていたら、独自の対ゾンビ戦法を編み出した盲目の達人に出会う――とかやり過ぎではないかと。や、爆笑できたのですから良いのですが。
 以上。ゾンビ物・シミュレーション物の傑作でした。文句なしにお薦め。

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