Crescendo FullVoiceVersion 感想

 3/14 冷静になってみると、褒め過ぎたのでちょいと修正。

  • 感想

 評判の良いこの作品に対する私のファーストインプレッションはあまり芳しいものではありませんでした。ですが、最後の最後、姉のあやめアナザールートでこりゃあ凄い名作だと力づくで納得させられました。 
 以下その感想となります。


 絵は線の細い少女漫画風で、BGMはクラシック・ジャズ(ラグミュージック)が使用されています。それらが相まって独特の静かな雰囲気を作り出しています。

 
 文章は完璧に三人称小説の文体となっています。主人公と他の登場人物の心情描写が分け隔てなく挿入されますし、単語の選択も端麗で、一般的なエロゲの文法とはかけ離れています。時折鼻につくほど表現がくどいことがありますが、読むように引き込まれる力がありました。ただ登場人物たちの行動の意味を全てを言葉で表現する癖があり、そのため誤解のしようがなく良いかも知れませんが、もう少しプレイヤの想像に任せて欲しかったかなと思います。
 ちりばめられた引用・元ネタの出典はメジャー過ぎず、マイナー過ぎず、アングラ過ぎずとニクイチョイスでした(関係ありませんが、メジャー過ぎて、マイナー過ぎて、アングラ過ぎる引用好きとして呉氏を挙げたい所)。


 シナリオについて。卒業式の数日前〜卒業式とゲーム中に過ぎる期間は短いのですが、その間に現在の関係に至った経緯とこれからの関係への変化が描かれるため密度が高く、物足りなさは感じませんでした。
 それではヒロインごとに述べていきます。
 柳楽歌穂&芦原杏子。柳楽歌穂はさばさばとした性格の同級生で主人公の友人と付き合っている、また芦原杏子は自身の長身にコンプレックスを持つ下級生で主人公に対して好意を持っているという設定で、共に主人公と同じく文芸部に属しています。彼女らのシナリオは対の構造になっていました。始めに杏子に主人公が告白され、受け入れるか受け入れないかで分岐します。
 主人公の、また歌穂の互いに対する屈託に満ちた思いはプレイしていてひしひしと伝わり、その結果彼らが通じ合えるとひとしお感慨が強かったですね。ただあおりを喰って杏子を選ぶ根拠が薄弱でした。珍しい造形ですし、エプロン姿はむしゃぶりつきたくなる可愛さだったのでキャラクタ的には好きなのですが、シナリオ上では存在感で負けていました。むしろ歌穂の別ルートと取るのが良いのかもしれません。
 そう呼べる理由として主人公に選ばれなかったヒロインの感情の持って行き方が丁寧に描かれる点があるのですが、そこで主人公の友人が活躍します。バスケ部のキャプテン・成績優秀・社交性に富み人望有り・毅然としながら温和な性格etcと揃った完璧超人なのですが、袖にされようが、ピエロになろうが、自分以外の人間たちの幸せを優先するという凡人の想像を絶する行動を取ります。とはいえ彼がいたからこそ皆道を間違えませんでした。

 「僕っていい友達だろ?」 

 全くです。ライタが便利に使い過ぎだろうと思わないでもありませんが。
 アナザーシナリオは共に本編を凌駕するものではなく、ifシナリオとして平凡でした。


 音羽優佳。5000円でウリをやっていると噂される同級生で、主人公は嫌悪感を抱いています。そこから彼女の内面に触れて徐々に印象が変わっていくというシナリオです。ウリも彼女の心と体の傷も扱い方が難しい題材なのですが、因果応報をあえて描かず心の在り方だけに絞った処理が適切で、無神経さは感じませんでした。その分、痛みに満ちていますが。エンディングは2種類あり、片方はハッピーエンドで、もう片方は渋みのあるノーマルエンド。どちらも味があるのですが、ノーマルエンドは卒業式で終わるという構造上の統一を壊すため、その点だけが残念でした。
 アナザーではifルートとして良く出来ていました。主人公ではいけなかった喪失感と、もう心配しなくていい爽快感が混じり、これぞ青春の苦みでしょう。また端々で語られる主人公はいずれ良い男になるという言葉が最も実感できるシナリオでもありました。

 
 紫藤香織。常に冷静な態度を取る養護教諭。お見合いぶちこわし作戦という純然たるラブコメで、一番肩の力を抜いて楽しめました。
 アナザーも素直になれない大人の女性の純愛物としてまとまっていて、にやにやしっぱなしでした。


 静原美夢。他のヒロイン全てを攻略するとそのルートに進める隠しキャラです。美夢はずっと入院していて学園にこなかったため過去の回想が主人公にとっては重みがなくなり、現在の変化だけが意味を持つようになります。にも関らず美夢にとっては――ということで、ことここにいたってヒロインと主人公の時間は非対称となります。その上で訪れる主人公が美夢の母親の会ってからの一連のシーンには類稀な痛切さを与えられました。理解を絶する衝撃と、理解できない悲痛さを同時に味わえるのはプレイヤだけというのが上手すぎです。
 アナザーは本編の感動とは別にしてああいうエンディングを見たかったので、他の致命的な問題点は見えない振りをさせていただきます。


 佐々木あやめ。本編とアフターの合わせ技で絶品となっていました。本編で苦悩の末に辿り着いた1つの約束を現実に成し遂げるためにあった3年がアフターで描かれています。そこでは主人公を待つだけとなったあやめの退廃が明らかにされます。愛が嵩じた現実の希薄故のだらしなさと愚かさ、そして蕩けるほど艶めかしいその姿には衝撃を受けました。まあそこから回復するかどうかが大事なのですが、それ以降はややパンチが落ちていました。


 以上。傑作でした。

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