大雪の中、彼女の上にだけ数字が降っていた。
(青の数学 1 、P8)
雪降る中に数字を覚える才能を持つ少年と、数学の天才の少女がふとした拍子に出会い、他愛ない約束をする。
数学は一生を掛ける暇つぶしになるか、を1年かけて答えを出せ。
或いはそう、
でも、これこそが数学。
1 2 6 25 45 57 299 372 764 1189 2968 14622 ……
(青の数学 1 、P62)
天才が問いかけた数列。
それらの問いから数学を巡る冒険が始まる――
そんなキュートな出だしで始まる本シリーズ。ネット上での数学決闘空間「E^2」がある世界を舞台に、数学に燃える少年少女を書いた群像劇です。
己の才能と努力を武器に、論理の強度と速度で殴り合う数学決闘は架空競技として成立していました。数学そのものよりも、数学に関わる人間を書いているため、高校レベルまでの一般的な数学の知識さえあれば書いてある単語に関してはちんぷんかんぷんということはないかと。綺麗な数字・論理への憧憬という共通認識さえあれば十分楽しめます。
そして数学と数学決闘に己をかけ、挫折し、再起する少年少女らは外にも内にも全力で問いかけます。
問題の解答は何か? 何故数学をするのか? そもそも数学とは何か――?
未熟な面々が相克し、止揚する在り方――それはそれは熱い青春小説でありました。
―――このまま進んでも、何もないかもしれない。
このまま問題を解き続けても、永遠に追いつけないかもしれない。そう思わせれば、諦めると?
数学をやり続けることそのものまで、諦めてしまうと?
こんなに苦しいなら、数学を続けることそのものを放棄すると?
そう、思われているのか。
熱い何かは、煮え滾るようなたった一言に、凝縮した。
―――ふざけんな。
(青の数学 1 、P143)
文章で言葉にされるのは思考そのものと、その表出たる論理。それを直接ぶつけ合うからこそ、余計に登場人物らが己を懸けているのだと理解させられます。
生み出した論理に純粋で、だからこそ純粋に近づこうという数学は――人の行為でしかなく。
数学への興味と、人への興味。
後はもう熱に浮かされたように、冷たい論理に淫するように読み進めるしかありません。
「答えは?」
窓に吹きつける雪か、その先の薄暗い雪景色か、あるいは目の前のなんでもない何かを見たまま、彼女は口を開いた。
(青の数学 2、P305)
1年かけて得た答えは読み終え読者にどう響くでしょうか。そして読者ならどう答えるのでしょうか。
それは読み終えようとする読者にのみ許された特権かと。
以上。愛すべき小説でした。
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