かぶきもの・前田慶次郎の前田家を出奔してからの半生を書いた時代小説。
己の衝動と意のままだけで生きていく輩であり、人を驚かす奇怪な出で立ちや傍若無人の立ち振る舞いをし、なおかついくさ人の義と情は人並み外れている――、本作における前田慶次郎は作者の意図通り魅力的な傾奇者として描写されていました。
はた迷惑な人間であり、戦国の世の流れを大きく変える力を持つことなく、大勢を救ったり支配するすることはありません。
ただ個として、煌びやか。
そう生きることは出来ないけれど、そう一度は生きてみたい、男惚れする爽快な男ぶりになっています。
豊臣秀吉に対峙して曰く、
「その意地、あくまでも立て通すつもりか」
慶次郎の返事がよかった。
「やむを得ませんな」
気張って意地を立てるわけではない。それが自分にとっては自然の振舞いになってしまっているのだ、と云っているのだった。
「立て通せると思うか」
「手前にも判りませぬ」
そして慶次郎は微笑った。ちょっと照れたような、含羞の微笑だった。
(一夢庵風流記(Kindleの位置No.1476-1481).新潮社.Kindle版.)
その意地良し、押し通せとされた武者。
喧嘩や騒動を作ったり呼び込んだりしながら、京へ越後へ越前へ、はたまた朝鮮半島へと赴き、どこでも前田慶次郎の生き方を貫く道中は、血なまぐさいものの、こいつらしいと知らず笑みが浮かぶものでした。
石田三成の狂乱とか所々とぼけた文節もあり、なかなか楽しい読み物になっていました。
以上。良く出来た佳作でした。
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