白羽蘇芳は祖父と二人暮らしで通信教育のため、高校生になるまで同年代と触れ合いがなかった。
友達を作ろうと、3人一組をアミティエという制度を設けている全寮制のミッションスクール・聖アングレカム学院に入学する。
その女学校で彼女は待ち望んでいた学園生活を過ごし、一生の友人に出会うことになるが、同時に日常の事件に巻き込まれていく――
という感じの百合学園ミステリADV。
イノセントグレイ作品はこれまでも絵の美麗さと美術の品の良いセンスは好みで追っていました。シナリオに関しては、ミステリとしての評価を棚上げしておけば、美少女の身体をどこまでグロテスクに料理するかという残虐趣味は諸手を上げて歓迎するところでした。
本シリーズはその残虐趣味を抑えて勝負にきていたので、ミステリとして評価するのか辛いかもしれないなーと思ってプレイに臨みました。
で、クリアしたのですが、や、意外に面白かったです。4部作なので全体を通した感想はまだ言えませんが、シリーズの初っ端を飾る作品としては十分な役割を果たしていたと思います。
さて、本作のミステリのジャンルとしては"日常の謎"に入ります。
――図書館から本を盗んだのは誰か。
――オリエンテーションにおける真の不吉な番号は何か。
――失踪した少女は何処にいるのか。
全寮制で滅多に外に出ない、ほぼ若い女性しかいない閉鎖空間において起きる事件。驚くべきことにそれらの謎は知っているか知っていないかという知識に偏っているもののフェアな作りをしており、提示されている情報と雑学によって必ず解くことが出来ます。
Now reasoning/推理中。
そして主人公・白羽蘇芳が推理し、真相を解き明かせるかどうかで進行が変わってきます。もっと言うと、推理に誤ったら、皆割と仲良く不幸になるBAD END一直線。彼女は謎を解き明かすしか、先に進む道がありません。
博識で明晰、世間知らずで人情の機微に疎い、引っ込み思案で人恋しい。用意された世界観と謎に対して、今回探偵役に据えられた彼女の造形のアンバランスさは見事にこたえていました。
ここで問題となるのは学園ミステリにおける探偵とは――というもの。
青春ミステリ/学園ミステリというジャンルでは、滅多に無謬の探偵は出てきません。そもそも無謬の名探偵と言うものが絶滅危惧種ではありますが、わざわざ青春時代を舞台に設置した以上、人間としてまだ未熟な時期であり、探偵役になった青年期の登場人物は何らかの形で自らが傷つくことが多いです。傷つける刃は真相だったり、解こうとした行為そのものだったり、様々で。
白鳥蘇芳はその機知によって、彼女の望むもの――学園生活を手に入れていきます。
ここで大事なのは別に彼女は探偵役になりたかった訳ではなく、楽しい学園生活を送るために、ひいては友人を得るために奮闘していただけなのです。
だから彼女が違和感として気づいたのならば、誰もが事件を事件だと認識したのならば、それは彼女が解くべきフィールドになるのですが、認識出来なかったのならばそれは放置され、どうしようもなくなる終わりの原因となりえます。
春、出会いの季節。
友情を求めに来た未熟な人間には、友情の先に待つ物に気づくことが出来ませんでした。
私自身が分水嶺にいるのだと識った
謎を散々解いてきたにせよ、友情と愛情の端境でどう振る舞うのが正しいのか、その明晰さはのぼせあがるだけでした。
気づいた時には遅く、その知性の見落としは彼女にとっては女性同士の同性愛でしか訪れえなかった――というのは百合でありミステリである作品としてなかなか良い落とし所であったんじゃないかと思います。……考えすぎかもしれませんが。
さて最後に百合描写に関して。
王道に衒いなく、良かったと思います。
工夫がないと言えばないのですが、美麗な絵でばん!と見せている時点である程度の勝ちが確定しているかと。
個人的には足を絡ませるこのシーンが超好きです。
あと出来ればもう少し恋人になってからのイチャイチャが見たかったなーと思いますが、しょうがないでしょう。
夏以降は、これで蘇芳がまた別の女性らと恋人関係になっていこうとしたら驚愕どころの騒ぎではないので、おそらく別のキャラクタを取り上げるのかと予想。どんな作劇を見せてくれるのか楽しみです。
以上。予想以上に楽しめました。
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