夏ノ終熄 雑感

 パンデミックにより世界は終わりを迎えようとしていた。田舎で一人生き残った青年は海を目指して正反対に来てしまった方向音痴の少女と出会い、ひょんなことから彼女と2人の生活が始まる――


 CUBEが制作したミドルプライスの中編ADV。
 終末を背景にしていますが、ヒロイックさやダイナミックな展開はありません。基本ラインは日常物で、2人の自給自足の毎日が描かれます。
 人間関係に疲れて田舎に住んでいた普通の青年と、荒廃した都会から逃げてきた少女とが袖振り合うも他生の縁で出会って一緒に住むようになるものの、スローライフで悠々自適と行かず生活を維持するのはそれなりに大変です。ライフラインは湧き水と非力な自家用発電機、サバイバル知識は祖父たちから教えられたものの詳しくはなくおおよそふわっとしている、タンパク質はバッタとカエル推し。
 そんな生活で、この作品の選択肢は「どこに食料を取りに行くか」がメインになります。山菜や、川のエビや、沢のカニや、あるいは近隣が残した梅干しとかも。
 そしてルーチンを回し続けられるのか/日常を続けられるかが本作のエンディングの分岐となります。
 朝起きて鏡を見て、

 

 朝ご飯を食べて、洗濯して、食料を探しに行って、夕飯を食べて、風呂に入って、ちょっと梅酒を一杯やって寝る――『今日もよい一日だった』という積み重ね。
 その一日は同じように見えて同じではなく、連なった日々の先には確かに未来が待っているというのが短いテキストでわりときちんと表現されていました。1周は長くありませんが、文章差分は結構豊富で、行った場所や得られた食材や食べたものによって会話が変わるのです。こういうことをしたらどんな反応をしてくれるだろうか――バッタ食を何度も薦めてみたらとか――と周回がちょっと楽しくなる仕掛けでしたね。
 ただ当然終わりゆく世界に、変化はいいことではないこともあって。
 朝、鏡を見るヒロインの何気ない反応。保湿剤欲しい―とか、昨日の疲れは寝て取れたな―とかの先に待つものには、考えていない行動をしているとそれなりに妥当な終わりがやってきます。
 楽しい毎日を過ごして、幸せな終末を迎えられるのか――面白いプレイ体験だったと思います。

 ヒロインのミオは良い造形でした。ひねてなくて素直で、隠したり飾る前に口と表情が出て、それでいて耳に触らず一緒にいても苦痛ではない、たまに訪れる沈黙もまた楽しめる彼女。日常物は良い反応を返してくれるとほんと嬉しいんですよね。

 システム・UIは文句なし。ADVとして快適にプレイ出来ました。
 あと1周すると回想コンプリート出来るボタンが出てくる普通のADVは珍しい気がしました。



 色々と褒めてきましたが、最後に難点をいくつか。
 ・終末の原因はあえてでしょうが、かなりふわっとしています。展開と合わせて非常に突っ込みたくなりますが、まあそういうものと飲み込むのが良いかと。
 ・1周が短くて、この短期間でその程度の栄養で変わるのかという疑問も当然出てくるのですが、ゲームのお約束なのでそういうものなのだと(ry。
 ・妊娠差分と猫差分は賑やかしとして悪くないのですが、既読スキップしてるとラストの一枚絵が飛ぶのはいかんと思います。



 以上。安定のかずきふみシナリオの秀作でした。

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 HP-夏ノ終熄


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  夏ノ終熄 初回版