雨の日も神様と相撲を 雑感

 相撲を愛する両親に育てられた少年・逢沢文季は体格が華奢であり実際の取り組みでは不利だったが、相撲の理論には親譲りで非常に長けていた。文季は蛙が神様として崇められ相撲が大きな価値を持つ村に引っ越すことになり、ひょんなことから蛙に相撲を教えることになる――

 
 副題に"少年少女青春伝奇"とあるとおり、"蛙が相撲を取る"という超自然を自明の前提とした伝奇ミステリ。
 題材を目にしたときには「え?」っと困惑しましたが、読んでみると突飛なだけではなく、極めてロジカル――言ってしまえば論理立ちに見事に淫していていました。めっぽう面白かったです。


 まず理論ありきで相撲を取るしかなかった少年が蛙専用の相撲に取り組むロジックがキレッキレッ。

「見ているかぎり、カエル様の相撲は人間の古い相撲に縛られてる。土俵も仕切りも古典的なものを踏襲してるし、決まり手も人間のものを真似するにの留まっている。悪いとは言わないし、現在の大相撲から失われたものが残っている部分もある。 でも、カエル様にはカエル様だけの、つまり神様だけの決まり手があってもいいとは思わないかな」

 神様の、カエルならではの――新しい決まり手。
 そしてこの新技を組み込む裏の目的とか、本当にカエルの解剖学に沿った新技とか、もう、何これな何これと読んでいてワクワクしっぱなしでした。
 相撲パートが面白すぎて、殺人事件パートがちょっと邪魔くさいけど、そこは愛嬌かなと。
 それに異常でも論理は通っているのは共通していますし、"蛙に相撲を教える"奇想と、"トランクに詰め込まれた死体"という現実的な事件を行き来する構成の作品リアリティレベルでの地続きさと、あんまりな光景の差に眩暈され、これはこれで非常に乙なものでした。
 恐ろしいことにちょっと驚くどんでん返しも、少年少女の恋愛も、最後まで理に適っています。どこまでも理にかなう冷徹さと、理を通す異常さを、にもかかわらずボーイミーツガールとして良質であり、エンタメとして昇華させているのは凄いと言わざるを得ません。


 それにしても、なにもかも論理が通りながら箍が外れているのは、これぞ城平京だなあと。
 なんせ、例えば「小説スパイラル 推理の絆〈2〉 鋼鉄番長の密室」では"番長による闘争"をガチガチに論理だって組み立てるわ、「小説 スパイラル 推理の絆~(4)」では論理的過ぎて類を見ないぐらいに狂っている動機を打ち立てるわ、そもそもデビュー作の「名探偵に薔薇を」でも名探偵の登場こそが○○でした。
 ロジックという武器を使って謎解きだけに陥らない広義のエンタメ作品を生み出す稀有な作者として得難いと思います。
 今後も新作ごとに目が離せませんね。


 以上。傑作でした。お薦め。

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