極大射程 上下 雑感

 ベトナム戦争で活躍したが怪我により除隊し現在は隠遁している凄腕スナイパー、ボブ・リー・スワガー。彼の下に銃弾の評価の依頼来た時からアメリカ全土を巻き込む陰謀に巻き込まれた――


 という冒険小説。
 どこを切ってもマッチョの血しか流れない、超マッチョさ。ライフルとスナイパーと戦う男への礼賛に溢れています。
 まずもって、正しきスナイパーらしさが極まったボブ・リー・スワガーという造形の完成度が馬鹿高い。無駄のない体型と鍛え抜かれた体力、必ず計画立てて考える冷静な思考、無駄口をたたかない厳しいが義理高い性格、腋目を決して振らない余人真似できぬ集中力、そして卓越したスナイプの技術。女性にはちと弱いのも愛嬌。
 ここで造形に関して上手いのは、見ただけで距離が判るような良くあるスナイパーの天才的な距離感は持っておらず、距離から弾道まで全てを無意識的にも意識的にも計算しないといけない――とした所でした。その設定により手持ちのカードで常に計画をしてから勝負に出るという性質が増強されており、ご都合主義を極力遠ざけることで、敵対する人物・組織への対抗策を見極め抜いて逆転する爽快さがかなり高かったです。スワガーが自らの信念と信義に基づき、自らの全身全霊を持って、鍛え上げられた部隊も、凄腕のスナイパーも、ついにはFBIをも相手取って闘い抜いていくのを、先がどうなることかと毎回わくわくと読み進められました。

 
 さて、重ね重ねになりますが全体的に古き良き男らしさに溢れていました。

「これだけはいっておこう」と、ヴィンセントはつきまとう記者たちにいった。「こんなことをボブに仕掛けたやつが誰かは知らんが、確かに大した仕事をしたよ。そいつはボブを罠にかけ、名声を地に落とし、ボブをアウトローに、アメリカで、いや世界でもっとも憎むべき男に仕立てあげたんだからな。そのうえ、そいつはおまえさんたちを利用して、雑誌やら新聞やらテレビやらでボブについてあることないこと吹聴させてる。そうとも、確かに大した仕事だ。ただし、ひとつだけ間違いをしでかしたな。それはボブの犬を殺したことだ。いいかね、このあたりの土地じゃあ、犬も家族の一員とみなしてるんだ。だから、この一件は"個人的な"問題になってしまったんだよ」

 米国全土から追われても、百人規模の敵部隊とライフル一丁で向かい合っても、FBIから兵の中に追いやられようとしても、何もかもが"個人的な問題"に帰結し、単身で向き合い、打ち勝つ姿。
 ある種の理想ではあり、その理想を陳腐なものにせずに書き得たのは昨今のゴミの山のような冒険小説を思えば驚愕すべきことかと。
 名作と名高いのも納得です。


 以上。意外に楽しめました。ただまあ続きを読むのかと聞かれれば、読まないですね。

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