- 真鍮の都
複製を作るために9世紀のシェヘラザードを誘拐した22世紀の男は間違いで果てしない未来に飛んでしまう――。シェヘラザードたんの9世紀ならではの空気読めない感と圧倒的美女感が合わさって、天然系ヒロイン度数がヤバイ。さすがヤングとしか言いようがないタガが外れたハッピーエンドと言い、日本人が好む要素ばっちりだなあと。個人的にもフィニイと比べればヤングが好き。
- 時を生きる種族
太陽が死にゆく遠未来の地球で<向う傷のふさぎ屋>は旅に出て、時を知る――。その理論を押し通すのかという実験的でいて、絵的な面白さを追求した漫画的な短編。娯楽SFとはこういうものだろう。気に入った。
- 恐竜狩り
10万年よりも前に時間旅行できるようになり、恐竜狩りが商売になったが、参加するには条件があったーー。恐竜の生態はよく書けてるんじゃないかな。ストーリーは普通。
- マグワンプ4
間違って"MU4"に電話をかけてしまったことから、平凡な男は遥かな時空に飛ばされるーー。痙攣的時間移動物なのだけど、トントン拍子に泥沼にはまって行く意地の悪さが読んでいてニヤっっとできる。
- 地獄堕ちの朝
中年男が酒瓶と共に震えていると、女から「生きたい?」と声をかけられる。そして、うしろを振り返らないように言われて歩き出した時から悠久の戦争に巻き込まれて行くーー。日常が崩れて行く過程と、日常のほんのすぐ裏にあった異常の書き方が上手い。上遠野耕平×恩田陸×半村良という感じ。ホテルという舞台、歩くという行為などの普通の地点から、思いもしない所に着地するのが、えらい格好いい。このシリーズは本で出ないのかな。
- 緑のベルベットの外套を買った日
結婚を前にした女性が古本屋に行くと、妙な青年に出会ったーー。ハーレクイン的。つまらない。
- 努力
時空を超えた画像を撮影可能な機械で行われたこととはーー。出来は良いし、こういう発想のものとしては上等。ただ丁寧に世界を変えようとした過程の高揚が素晴らしいので、結末のペシミズムっぷりにびっくりした。
- まとめ
アンソロジー『時の娘』のタイムトラベル恋愛小説っぷりの方が好きだけど、変化に富んでいるので楽しく読めた。「時を生きる種族」「地獄堕ちの朝」「努力」が好み。特にライバー作品は今後翻訳を続けて欲しい。
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