Omegaの視界 〜ミヨ オワレル シマイ トワ(●nd)〜 感想

 全体を通しての感想です。


 『Omegaの視界』は、

『Omegaの視界 シキのはじまり/未解封のハコニハ』
『Omegaの視界 アキかけたシキのアイ』
『Omegaの視界 アキかけたシキのアイ:残』
『Omegaの視界 〜ミヨ オワレル シマイ トワ(●nd)〜』

 以上のような4章構成であり、第1章の『未解封のハコニハ』が配布されたのが2007年です。完結版が配布されたのが2010年夏コミであり、長い製作期間を経てとうとう完結した本作は未曽有の傑作となっていました。


 まず本作の最大の肝は世界設定であり、世界設定の表出/名付けと語りです。


 世界設定は伝奇/ファンタジーの定番を忠実に守っています。神話があり、組織があり、異能があり、異能力者がいます


 組織――WC、Lu=Le、GW、八相、十全etc。
 異能――CAT、prot-ein、Ig、キリサキという装備。或いはフェンリロス、フロシルクの縛鎖etcという術。
 異能力者――四重奏団やCAT_X/10、8人姉妹という集団。或いは主役たる魔眼の刺し手、ThousandBrains、西部五相etc。


 何て素晴らしい、ネーミングセンス。
 Ig/抗原という発想なぞ感動物ですし、ジャンルを問わない、ただあるように決められた名称の数々は圧倒的です。ただでさえ綺麗に構築された世界観が美しい名付けによって、余計にきらめくことになります。
 細部まで考えられた世界そのもののと世界の名称の情報は当然ながら膨大です。そして会話において世界特有のジャーゴンが畸形的なまでに発達しており、作中人物により世界が語られる時にジャーゴンが垂れ流されることになります。例えば序盤のこういう会話。

「『狩り』の始まりか。
WCLはチーム一隊送ってくる気なの?」
「Ender:333がどうしても出たいと駄々を捏ねておりまして」
「ふうん。
でもま、とりあえず待機だね。
場合によっては黙らせとかないと。全て無為になりかねないよ。
例のEnderナンバーでしょ? 煩そうだったしなぁ。あの娘。
兄様に釘刺しといてね。
…そういえばノートも来る? 来てる?
「LuLeの赤の女王が動けば一石二鳥ですから。
それでノート様筆頭にCovenの一部が来るようですが」
Enderナンバーもそっちに回しとけば?
あ、どっちにしてもWC_Sc:ThousandBrainsは来ないといけないか。
結局一緒てことね。
 (「しろおにしろうるり」/『Omegaの視界 シキのはじまり/未解封のハコニハ』)

 誰が、何を対象に、どう喋っているのかさえさっぱり判りません。プレイヤおいてきぼりです。
 しかも会話は“…”や“●”という伏せ字で伏せられまくり、報告書は(省略)され、(解読不明)です。加えて各対象を指し示す名称が複数あり、状況に応じて使い分けられ、ここの場面とあそこの場面で同じ人/能力について語っていたということにさえ気づきにくいことがあります。例えば判りやすい例ですと、千野チノという補佐役がいるのですが、彼女はThousandBrainsでもあり、なおかつ“蒼白穿の遣い手”でもあり、言及する人物の立ち位置によってどれを使うか選択されます。しかも漢字とカタカナが開く時も開かない時もあり、玉梓何某という人物を言う時に“タマズサのもの”とされるときがあり、一瞬は?となります。
 そして、この意味不明が無茶苦茶――楽しい。
 進めていくうちに、意味の判らない――しかしとてつもなく魅力的な会話が積み重なり、情報が増え、結びつきが可視化され、膨大な世界観が体をなしていきます。プレイしている私の中で。何度も言いますが、世界の姿が魅力的であるからこそ情報の集積による“視えた”瞬間は快感に打ち震えました。


 文章はまどろっこしいものの、伝奇を語るのに相応しい伝奇ちっくな文体となっていました。特に振り仮名のセンスがこれまた嬉しい悲鳴が出ます。日本語に限らずドイツ語・英語のルビを振り、外来語は出来るだけローマ字で表記します。結果として、ゲシュタルト崩壊に“めよりいるものばらされる”と振られ、CATastropheは破局を意味します(CATを強調する数々をご覧あれ)。素晴らしい。


 ストーリー・展開はぶっちゃけてしまえば単純明快です。『Yの欲動』『ゲーム』で纏めれば、数行で纏まります。しかし、設定で言いましたが、そうなっていく過程こそが本作を特異なものとしています。


 絵は美麗であり、出てくる美少女・美女は愛くるしい魅力があります。戦闘シーンもCGの数こそ少ないのですが、燃えるガジェットが随所で披露されます。
 歌・音楽も共にレベルが高いです。OHPにムービーがあります。
 

 以上。どう言葉を尽くしても本作の魅力を伝えきれませんのでここらへんでやめておきます。
 とにかく設定マニア歓喜の奇蹟/新伝奇の一つの頂きたる傑作ですので、興味をもたれた方は是非プレイをば。お薦めです。

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 OHP-ねこバナナ