実体を持たない虚惑星が数学者の計算によって観測され、特殊な演算を行う転送環によって虚惑星に転移することが可能になった。しかしその表面積が地球の120倍におよぶ巨大な新天地に転移出来るのは7歳~19歳の少年少女のみだった。虚惑星を探索するために日本では複数の高校に冒険部が設立された。
青藍高校に入学した日ノ岡穂群が虚惑星で魔法使いにならないかと冒険部に誘われたところから物語は始まる――
虚惑星を探索する少年少女たちを書くジュブナイル冒険小説。
1-3までで穂群の冒険部での1年間を書いた全7冊編成の第1部となっています。
ジュブナイルで、冒険――ほんとに王道でした。
「ここからは……冒険ですね」そう呟いた御陵に、「だなっ」と上狛が愉快そうに応じます。
(えっ、まだ冒険じゃなかったの!?)……と、ほむらは突っ込んでやりたい気持ちでいっぱいでしたが、その時ちょうど空に起きた異変に目を奪われました。
(ファイヤーガール2「白嶺の幻肢虎」下巻(TYPE-MOONBOOKS)(Kindleの位置No.4063-4065).)
「あかん───」先ほどまでは、遺跡深部の探索に意欲的だった鼎は意見をひるがえします。「───何が起こるかわからない。行ったらだめ」
多数決は、二対二───鼎はほむらへの説得を請い求めるように、東野に鋭い視線を向けます。東野はほむらに向き直りました。
「俺だって、幻肢虎を見過ごせない気持ちはあるよ……けど」
「……冒険だよ東野くん。きっとこれが、冒険なんだよ」
「……っ……」
東野の返事を聞くことなく、ほむらは再び階段を降りはじめます。
(ファイヤーガール2「白嶺の幻肢虎」下巻(TYPE-MOONBOOKS)(Kindleの位置No.5753-5758))
地球では大人や国家の思惑が入り乱れてままならぬ出来事も多いけれども、一度虚惑星に赴いてみれば地球の人類が見たこともないような光景を見ながら未踏の地を踏破していきます。
おっかなびっくりだったり、わくわくしたり、恐ろしかったり。
少年少女たちがそれぞれの感受性を持って対峙していく時間はかけがえのないもの。
ただそれは期限付きで、転移可能な期間は限られていて高校生活が終わればもはや虚惑星に地球から行くことは出来ません。だからこそ今ここに仲間と共にいる絆は強くなりますし、自分の目的をなんとしても達成したいとエゴがぶつかりますし、後進に何を残せるのかと悩むことになります。
ひっくるめてそれは青春の日々で、その輝きの一抹を上手く切り取っていました。
そのいずれ失いゆく時間らしさを強めていたのは文体でした。
この小説は全体を通して"ですます調"で記されています。
穂群に寄り添って愛おしさがたまににじむ視点は誰のものか――今ここの記録を誰が観ているのか。その仕掛けも大事ですが、そう仕掛けている目的、今をどう語るかの選択が正しかっただけでも十分ではないでしょうか。
さてでは諸手を挙げて面白いかと言えば――うーん、そんなことはありませんでした。
滅茶滅茶面白い所はその質の高さで思う存分にぶん殴られましたが、今一つ乗り切れない部分がちょこちょこ・・・そこそこそ・・・まあまあ挟まり、ラストも盛り上げようとはするものの、その方向性を観たかった訳ではないんだよなあという感じ。
や、面白い部分は抜群なんですよ。
正直1巻はかなり低調なのですが、2巻に至って複数の高校が出てきて沖縄での研究発表や、虚惑星の孤島でのオリエンテーリングとか高校生ならではの描写に没頭していき、3巻での海での異変から異常事態を推測していくパートはこれぞ冒険という楽しさに溢れていました。
それに、超常の描写も凄いんですよ。
虚惑星の空を飛ぶシーンの爽快さとか、極寒の異星で流氷の上を渡るシーンの寒々しさとか、遺跡の描写とか、そういう画になるシーンは読み惚れました。
でも・・・3巻の最終で皆で力を合わせて巨大な敵に立ち向かうのってそりゃ燃えるけど――未踏の地の冒険譚の一つとしてあまりにも即物的なんじゃないかなあとちょっと残念でした。
作者なら、星空めておならナニカとんでもないところまで引っ張ってくれるのではないかと期待してしまった、期待の仕方が悪かったのかもしれませんが・・・・
なお余談ですが細かい部分で好きなのは3巻上で東野が隣の部屋ではあはあと剣を振って訓練をしている時に稲荷があやしいことをしているのではないかと怒鳴り込んでくるシーン。や、あやしいことをしていたらどうしたんですかねえ。
以上。好きな部類ですし、加点方式で評価すればかなりの点数になるのですが、好きになりきれませんでした。もう一度読むかと言われると多分読まないでしょうかね・・・
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