indigo 感想

 舞台は十峰市、10年前に連続殺人事件が起きた町。折悪しく、実は連続殺人事件の犯人を殺した少年、殺人欲に滾りレイプ犯を夜な夜な探す女子高生、遠未来を予言する馬鹿、虫狂いの秀才、全力の決闘を心待ちに修行する小学生、藍色の時間に現れるスーパースターetcetc、変態たちに殺人鬼たちに人外たちが集った。そしてUFOもどきが予兆として現れ、再び似たような連続殺人事件が起ることになる――


 という感じにまとめにくい群像劇になっています。基本的なストーリーラインは、殺人欲に満ちた殺人鬼である少年少女たちが再び起こった連続殺人事件に関わり翻弄される――というものです。


 まず世界観に関して。殺人鬼たちが跋扈する世界を成り立たせるために、何重にも設定され、結果として静謐で騒がしい良質な――中二病の世界となっていました。
 1つ目は現と幽という大きな確固たるルール。全てがこのルールに基づいています。
 2つ目は歴史。外伝を通して、何百年・何千年にも及ぶ歴史のとある結末であることを示し、悠遊たる時間の流れを感じさせます。
 3つ目は謎の組織。屠傍衆、剣山、薔薇十字団、娘々廟会、運命時間、王立心霊教会――などの素敵ネーミングのトンデモ人間たちのビックリ組織が揃っています。
 4つ目は集合意識。人間にも虫にも集合意識があると設定することで、ここで語られる物語と関わりそうで関わらない大テーゼが設けられ、いずれ起こりうることへの予想が面白くなっています。これは年表づくりの面白さ、つまりは歴史とも関連しています。この点に関しては後述します。
 こうした嬉し恥ずかしの巧みな設定によって、物語を盛る為の甘美な器の精製がなされていました。


 次にキャラクタに関して。冒頭で述べましたし、OHPのストーリーで記されているように、一癖も二癖もある変人達が揃っています。まず遠未来予知能力を持つ高校生が爆笑でした。突如として、

「三百八年後に西アメリカ大統領が痔で死ぬ」

 と言い出すわ、大麻は探すわ、火は焚くわ、主人公格の少年・海保一樹に常時愛の告白はしてくるわ、好き勝手やります。同時に物語が進むとぼろぼろと素が出てきて深みが増し、突飛なだけではない良いキャラになっていきます。
 女性では矢張りメインヒロイン格の桜野真菜が変な言い方ですが傑作でした。殺人欲に満ちた少年少女たちと前述しましたが、彼女の場合満ち溢れてだーだーになっています。人を爽やかに殺したくて殺したくて、海保の血を吸いたくて吸いたくて恋焦がれて、心が一杯になっているのですが、その心の書き様がドえらかった。エロい、エロい、超エロい(大事なことなのでry
 海保の部屋に忍び込んで思って曰く、

 ………
 ………。
 とってもよく寝てる。
 自然と喉が、ごくり、と蠢く。
 いけない感情がぶつぶつと肌に浮かび、
 ざわざわ、鳥肌が立つ。
 ……さ、刺しちゃおうかな。

 何処をと言えば、首で。でも首を刺したらダメだから、ああどうしよう――罰としてキスしよう!と発情します。
 後はまろびでたり、濡れたり、垂れたり、漏らしたり限界ギリギリまで体を張ります。それに発情というのがキーワードになっていて、彼女が出張ると何故か下ネタの台詞が散乱します。下ネタへの反応がこれまた素直でデラ可愛い。何せ自慰してる?と聞かれて、真面目に考えて発情する思考回路が愛おしい。
 その“口はダメと言っても下の口は素直”的な、欲で体が張った意識の書き様は質感がありました。ここらへんにお手軽な殺人鬼ヒロインに堕ちない所以があったのだと思います。
 これはどのキャラクタに関しても言えるのですが、本当に意識の表出としての会話文と地の文が巧みでした。


 ストーリーに関して。ネタバレになるので詳細まで言いませんが、複数視点の章仕立てによるザッピングを選択肢なしと選択肢ありの2パターンで活用していて、先へ先へと気になる構成となっていました。
 ただ実の所、途中まではややテンションが低かったです。衝撃的だけど、良く魅力が伝わってこないなあと。しかし衝撃的なラストを見て、外伝で過去が語られ、大まかな全体像を掴んだ所でこうきました。

 ……ようやくキミと回線が繋がったようだね。

 ここから俄然面白くなりました。今まで述べてきた設定・歴史・人物が絡み合い、独特な物語を練り上げていました


 弱点として活劇描写とエフェクトが貧弱というものがありますが、そこをクドくやるゲームでもないので、大きな問題ではないでしょう。しかし、

「ちぃぃいいぃ!」

 で、場面転換はお約束とは言え、もにょりました。そこを見たいんだ!!と新伝奇好きの血が叫ぶのです。


 最後に蛇足として、集合意識に関して。

「なんで蝶はそんなに滅ぼしたがるのさ?」
「見切りをつけるのが早い性格なんです」
「見切りって、何の?」
「その生命体が宇宙へ進出できるかどうかの」
 ああ、そういえば昆虫は宇宙へ行きたいんだったな。
 そのために人類を進化させたのだと、
 滅茶苦茶なことをとんぼちゃんは十年前におっしゃっていた。
  (Phase5 露な心3)

 これですよ、これ。こういうのを見るとわくわくします。ミニマムに関わらないバックボーンの存在の示唆なのですが、物語ではなくこの世界の結末の想像の楽しさと言ったら、もう堪りません。小一時間は想像してわくてか出来るでしょう。
 こうした余剰の楽しみを可能にする懐の深さもありました。


 以上。端的に言えば面白かったです。お薦め。

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