シー・マスト・ダイ 感想

 超能力者が多く通う中学校を突然テロリストが襲撃し、逃げようとしたり反抗しようとしたクラスメイト達を殺害した。状況が緊迫し、元々あったいざこざから中学生同士の緊張も高まる中、偶然テロリストの目的が明らかになる。そして主人公の男子生徒・誠は幼馴染みの少女を守るために孤軍奮闘することになる――


 という内容。このような粗筋を知った時から期待した通りのコテコテの学園襲撃物でした。嬉しくなるぐらいにシンクロ出来うる妄想の産物とさえ言えます。


 まず主人公の少年は、強い超能力を持ち計算された暴力でクラスを支配する存在がいる中で、超能力がないにも関わらず人望があるという特異的な立ち位置にいます。そしてクラスの支配者を拒絶した美人の幼馴染みの少女とそれなりに仲が良い関係にあります。その居心地の良い席という前提のもとに、極限状態でクラスメイトと反目し少女と共に孤立し、彼女を守るためだけに動くようになり、それが引いては生き残る正しい行動になる――という特権さは大事です。
 や、真顔で言ってしまえば、常に主人公の立ち位置の居心地の良さに個人的に超シンクロしましたね。テロリストに怯えている中でも機転を利かし、しかしどうしようもならない時は美少女が助けてくれて、そして信頼してくれるという甘美。その甘美の甘さは知っている人には堪らないものがあります。

 頼むよ、こんなところで死にたくないんだ。せっかく志水さんとうまく行きそうなのに。死ぬなんて冗談じゃない。彼女を死なせるなんて冗談じゃない。
 誠は眼を閉じて心の奥底から念じた。
 頼む、頼む、頼む! ぼくの中のまだ見ぬ力! どうか目覚めてくれ!
  (P154)

 これですよこれ! これこそが、学園襲撃物の醍醐味です。


 次に暴力。現実的なアクション−リアクション通りに正しく問答無用に生み出される死と死体にはゲーム的な暴力性がありました。さっくりという言葉がぴったりなほど、登場人物たちは――少年と少女以外は――死んでいきます。
 またテロリストの設定もいい具合に通気性の抜けたものとなっていて大層解りやすく、こういう作品においては悪くありませんでした。最初に襲撃した際のテロリストの意味の通らない行動を襲撃された中学生の視点から延々と描写し、それから意外な正体と目的をテロリスト視点からあっさりとばらしてしまって、起こってしまった事とこれから行われる行為の意味付けがされるという構成も判りやすさを助長していました。頭を使う必要なんてないんですよ。
 あと数値化された超能力はロマンですよね、という感じで。


 どんでん返しもこの作品の傾向に合わせて完璧に決められていました。

 はるかがいった。
「ねえ、もしもわたしが世界を滅ぼしちゃうとしたら、どうする?」
  (P15)

 何という、少年少女の夜郎自大のワールド。もう最高と溜息をつくしかありません。
 

 文章は朴訥極まりない――端的に言えば残念なレベルですが、こんな完璧な妄想を巧みな文章で描写する方がおかしいので、作品には適していました。


 以上。“学園をテロリストが襲撃する”というフレーズにわくわくする方には間違いなく当たりの1作です。

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シー・マスト・ダイ (ガガガ文庫)
石川 あまね
小学館 (2010-08-18)
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