ある人文科学的実験のバイト広告が掲載された。7日間24時間拘束し、時給は112000円。切実に金を求める者、冷やかしの者、何気ない者、流された者、トラブルを期待する者――様々な事情を持った被験者が集う。12人が<暗鬼館>に閉じ込めれて実験は開始され、そして惨劇の幕が開ける――
という冒頭の長編ミステリ。
前口上でこう述べられます。
「では、最後に、警告をいたします。
この先では、不穏当かつ非倫理的な出来事が発生し得ます。
それでも良いという方のみ、この先にお進みください。
そうでない場合は、立ち去ることをおすすめします」
(インシテミル(文春文庫)(Kindleの位置No.413-416).)
まさにその通りで、実験とは主催者が法的責任を全て負い、被験者は犯人・探偵・助手として振る舞うことで貰える金額が大きく変わっていくというもの。
クローズドサークルのデスゲーム物であり、ごっりごりのパズラーです。
背景や感情や倫理や人間らしさは後ろにおいやって、そのキャラクタの言動がいかなる目的を持って起こされているのか――犯人が起こす殺人も、探偵役の推理もなにもかもが計算ずく。その人物なりに最適化された振る舞い同士がぶつかり合い、人数が減っていき死体が重なっていく中で誰が最終的に己の目的を達成するのか。
最終的にものほんの机上の論理でこれまでなされてきた事件とその解決がほどかれていくあたり、けっこうなビョーキであり、不謹慎な小説スキーとしてはにやにやして計算を後追いしていきました。
仕立てられた見立ては推理小説好きなら瞬く間に見抜くでしょうが、舞台からロジックのなにもかもがここまでミステリとして淫されるとあっぱれの一言。
以上。偶にはこういうミステリもありかなと楽しみました。ただお薦めはしません。
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<同作者の既刊感想>
折れた竜骨 上・下 雑感