駿河城御前試合 雑感

 戦乱の日々が終わり徳川家により天下が統一され家光が将軍についた時代。家光に取って代わろうと目論む秀忠の次子・駿河大納言忠長の命により、駿河城真剣御前試合11番勝負が行われた――

 凄惨なチャンバラ時代劇小説。
 非常に高名ですが、「シグルイ」と「腕」の漫画だけ読んで、これまで原作を読んできませんでした。その理由はと聞かれると答えにくいですが、バイオリズムとか縁とかその辺りでしょうか。今回kindleでセールになっていたのでようやく手に取った次第です。
 一読して成程と膝を打ちました。
 これは血生臭い。
 スプラッタ描写が目の余るのでもなく、死者の数が数多に渡る訳でもないのですが、文章から薫る臭いが兎角血で満ちています。
 斬って、殺す。
 斬られて、死ぬ。
 戦場が遠くになりつつある時代で、しかし人の命を容易に奪う武器を帯びる者たちが誰もかれも女を発端とした憎しみと怨みで相対し殺し合う、短絡な無情さ。
 後ろ暗い感情からでも、女への執念からでも、我欲でも、どのような形でも辿り着いた剣の理がぶつかり合って呆気なく失われていく技巧の冴えの刹那さ。
 誰がどのような剣をどのような想いで振るい誰が勝つのか――という興味で読みはじめ、徐々に誰が「生き残る」ことが出来るのかへとシフトし、それぞれの散り様の過程と残る死体の散文さとが釣り合わない惨状にうわあと額を押えて呻くようになっていきました。
 面白い、確かに面白いのですが、10番ぐらいでおなかいっぱいだったかと。


 そして原作を読んで、今更ながらにそれぞれのコミカライズの秀逸さに気付きました。
 盲目の武士と片腕の武士との因縁の一エピソードを偏執的に描き込んで膨らませた念が凄いのが「シグルイ」であり、より真剣で戦う武士の武者ぶりにフォーカスを当てて上手く改変したのが「腕」になるでしょうか。
 特に「腕」の改変ぶりは本当に素晴らしい。
 『飛竜剣破れたり』――宮本武蔵とは異なる興隆を見せた二刀流・飛竜剣を敗北せしめた剣は何か。
 『忍び風車』――幕府の隠密同士の試合の結末を見届けた者は誰か。
 『石切り大四郎』――石切りの魔剣の前に現れた敵は誰、いや何か。
 等々、原作の短編を受け取って、こう味付けを変えて整えるのかと感嘆するばかりです。
 原作から「腕」、「腕」から原作、どちらから読んでも楽しめる見事なお手前でした。

 
 なお、原作の11番目の勝負と全体の顛末の出来はちょっとお粗末でした・・・・。合わせて全体の1/3ぐらい文量を割いたわりにはこんなものかなと。
 でも10番目までは間違いなく楽しめたので良しとしましょう。


 以上。小説自体も悪くなかったのですが、より「腕」の魅力に気付けた方が嬉しかったですね。

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 駿河城御前試合 (徳間文庫)
  B07R3R7PVV 

 腕KAINA~駿河城御前試合~(1)
  B00GN6QWB6