夢見る宝石 感想

 スタージョンの第一長編。原題は“The Dreaming Jewels”。
 題名通りファンタジー系統で、短編に見られるような奇想・独創はそこまでは見られず、判りにくい所は少ない現代物でした。


 序盤は虐げられた少年ホーティがカーニバルで生活するようになり、そこで少女ジーナとの出会いが書かれます。義理の家族に育てられて傷ついた孤独な少年がカーニバルで平穏に生きながら、小人の苦悩を持つ少女との交流を深める生き生きとしたボーイミーツガールでした。

 彼女は話したかった。孤独と絶望を彼に知らせたかった。

 「孤独の円盤」まで痛切ではありませんが、それでも未成熟であるからこその孤独な二人が出会った切なさは十分に書かれていました。彼らは上手く言葉に出来ないからこそ、身体で触れ合うのでしょう。そこにそこはかとなく形にならない性的なものが混じってくるのが、これまた上手い所でした。
 しかし冒頭でホーティが激しく傷つけられる原因は語られません。野球場の観戦席の下で何かをしていたのですが、序盤には具体的にならず、引っかかる点として残っていきます。


 次いで少年がカーニバルを離れざるをえなくなり、少女とカーニバルのボスであり最初から明らかにされている通りのマッドサイエンティストとが少年を巡って争うこととなります。その転換は鮮やかでした。

 わたしの訓練がどれだけ深く浸透しただろうか?

 孤独の邂逅の果てに正しく触れ合えたかどうかが試される緊迫感といったらもう最高でした。
 以降はSFとして嵩じて生きます。人間のなり方をテーマにし、種族の生存競争に高じる大仰さはSFらしかったですし、三角関係というミニマムから語られるのはスタージョンらしかったです。「人間以上」に近い作風/互換としてまとめられるでしょう。
 なおここで冒頭の謎が効いてくるのですが、噴きました。ありなのかと言えばありなんですが、それでああなるのかと。


 以上。小粒ですが面白かったです。


 

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