黒牢城 雑感

 天正六年、荒木村重は織田軍に囲まれて有岡城にて立て籠もっていた。その冬に敵に寝返った武将の息子が雪の密室で殺される事件が起きる。裏切者の子供でも殺さないと決めた夜に誰が、どうやって。謎解きに窮した村重は牢に捕えていた織田方の使者・黒田官兵衛を訪ねる――

 と始まる、米澤穂信氏による戦国時代を舞台にした連作短編ミステリ。
 非常に評判が良くて直木賞も受賞されていますが、今回ようよう読んだ次第。
 米澤作品はたまにはしんどい時(主に思春期の夜郎自大の少年を打ちのめす場合)もありますが、どれもこれも大変面白く読んでいました。その中でも本作は確かにトップクラスにミステリと小説の融合として出来が良かったです。

 ジャンルとしては特殊設定ミステリの系譜。
 斬ったはった殺した殺されたが常の戦国時代での常識の下、籠城中という異常な環境で、殺人事件が起きるのです。
 そして雪の密室殺人、被害者のわからない首切り殺人、アリバイ――というミステリのコードが戦国時代で繰り広げられ、どうしてその殺人が謎となり事件となるのかという発端、刀・火縄銃といった暗器は多くありながらどうやって殺したのか、そして殺人そのものが罪ではない場合もありながら犯人をどう裁くのかという解決――なにもかもがミステリと時代小説の理想的な融合の産物として読み応えがありました。
 最後の最後でベースが二人の武将の知的合戦だったからこそミステリで言う見えない犯人に至り、膝を打ちまくりでした。
 史実の無常さと爽快さに溢れたラストまで良い小説を堪能しました。


 以上。ミステリの傑作。文句なしにお薦め。

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