乞う、ダンジョン探索小説

 ひたすら迷宮のごときダンジョンを踏破していく小説を読むのが大好きです。冒険するのはパーティーを組んでも、一人でも良く、むしろ主体はダンジョンにあります。最初は謎に包まれ、次第に造りが明らかになるにつれて作り手の深慮が判るようになるともう興奮してたまらないのですよ。
 WIZ系ゲームをやれということになりますし、実際やってはいるのですが、そういったロールプレイとは別に小説で読む快楽というのもあります。自分ならこうするという他人のリプレイを読む感じとか、効率とか余分なこと考えずにダンジョンと探索だけに浸れるとか、色々な要素が重なっているんじゃないかなと思います。
 ただなかなかにダンジョン探索小説で面白い物に合わないので飢えているのは事実です。俺TUEEおよび下克上系いずれもと相性が良いのか、なろうなどのweb小説でダンジョン探索物は散見されるのですが、玉石混合がスタージョンの法則が適合すぎてちょいと漁る気になれません。
 そんなわけで私がイマまで読んできたダンジョン探索小説で面白かった物を上げてみようかなと思います。個人的願望としては観測範囲と考えているので、あんな名作も知らないのと教えていただければ幸いです。

  • 『隣り合わせの灰と青春』&『風よ。龍に届いているか』

 

   WIZ系ゲームの良さを上手く小説に融かした古典的名作。レベル・装備・スキルなどの数値化できるものから血肉と化し、登場人物を練り上げ、操るプレイヤを出さずに視点を世界観内に止められており、目の前で繰り広げられる極上のダンジョン探索に浸れます。ゲーム文法側に傾いている『隣り合わせの灰と青春』も、ファンタジー小説側に傾いている『"風よ。龍に届いているか』もどちらもお薦めです。

  • 『砂の王 1』&『アラビアの夜の種族』

 

 
アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)
古川 日出男
角川書店
売り上げランキング: 189,737
 まず『砂の王 1』から。「ウィザードリィ外伝2」をベースにしたこの作品。人類最高を目指す魔術師が暗い野望を燃やしダンジョンを探索し、最強の剣士がダンジョンの奥底で狂気に落ちて行く、それぞれの目標が交差するとき、最悪の魔王への道が開かれる――という感じの内容。第一印象を言えば熱量が凄い。ダンジョンを探索するやむにやまねる悪意も強いのですが、ただの人類最高の剣士がダンジョンの底で狂気で時間の概念を忘れながら悪魔を召喚し続けるようになってからは圧巻の一言。死屍累々の上に成就する強大な悪魔の召喚、悪魔との死力を尽くした戦い――熱い熱い血潮が迸っていました。戦闘での『待っていた』の5文字の熱さといったらもう。なまなかに味わえない震えがきました。つまりはまあ『砂の王 1』単体で見て、素晴らしいダンジョン探索物でした。
 ただでさえ傑作のそれを自ら換骨奪胎し、WIZ的な迷宮のまま世界一の伽藍を築き上げたのが『アラビアの夜の種族』になります。ナポレオンに対抗する物語として、迷宮の物語が語られるのですが、ことここにいたって孕んだ熱量は魔的でした。ダンジョンが作り上げられていく過程、完成したダンジョンに非人間が集い魔窟になる過程、ダンジョンに挑む冒険者達――何もかもがおぞましいぐらいの魅力です。巻置く能わずとはこのことでしょう。
 読むなら『アラビアの夜の種族』だけで良いかもしれませんが、『砂の王 1』の後半は是非読んで欲しいところです。

  • ばいばい、アース1

 

 『ばいばい、アース』は骨太のファンタジーとしてめちゃくちゃ面白いのですが、それは今は置いておきましょう。ダンジョン探索物として見るなら、分冊され『1』と割り振られたパートが極上でした。特異の能力を持った面々がパーティーを組み、迷宮に挑む。だたそれだけをそのように面白く書いています。巧みな筆致とはこのことを指すのでしょう。

 

 『ロードス島伝説 1〜4』は名を刻まなかった英雄の物語として美事に完結したと評価しているので、5が出ると聞いた当初は蛇足ではないかと不安に思っていました。
 ところがどっこい。5は予想外な方向性、ダンジョン探索物として傑作だったのです。1冊だけダンジョン探索物を上げるならこの小説を上げるぐらいに。
 魔神討伐のために集った百の勇者が最下層に座する魔神王を倒すために"最も深き迷宮"を踏破していく、ただそれだけを書いています。勇者達がパーティーを組み、強大な魔神と戦い、時には倒れ、迷路や罠の地図を作り、時には罠にはまり死ぬ、その繰り返し。名のある者の名の無い者も己の実力と運が平等に試されます。
 つまりはマッピングマッピングの過程を小説で書いてここまで面白いのかと初読時は非常に衝撃を受けました。今でも再読すれば生か死の上に成り立つマッピングのダイナミズムに心弾むことでしょう。
 

  • その他

・クリスクロス
 クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫)
 手堅いVRMMORPG物。ダンジョン自体は単調でwizっぽい以外に言いようが無いのが難点。


・ファイナル・セーラー・クエス
 

 ダンジョンの奥底にある高校に通う冒険者志望の学生達を書いています。要は学生Wiz物。全体的にオフビートだけど、合えばめっぽう楽しめる。


迷宮街クロニクル
 

 現代日本に『迷宮探索』という1点だけ虚構を放り込み、人や社会がどう変容するのか、逆に迷宮がどう変わっていくのか書いています。前半の迷宮探索が主眼になるパートも面白いのですが、後半の迷宮を開発していくお祭り感の方が個人的には好きですね。ただ現代社会で帰還兵として振る舞わざるをえなくなる非迷宮パートをどう受け止めるかで評価が変わるかもしれません。


ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
 

 キャラクタのパラメータの設定が上手い。同レベル内での差の付け方は工夫次第であり、レベル違いはほとんど覆せないという数値の意味付けがあります。だからこそ作品内で"目に見えて"成長していく主人公が何処まで行くのか、何をするのか非常に楽しめます。

  • 巨大建築物探索物として

・宇宙のランデブー

 異星人が造り残して去った超巨大な構造物を探索します。コリオリの力が視認できる巨大な滝などなど大きさに度肝を抜かれたり、残された情報から異星人の特徴を推測したりと、探索物として非常に楽しい1冊でした。


・虚無回廊
 

虚無回廊
虚無回廊
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小松 左京
徳間書店
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 長さ2光年、直径1.2光年の構造物を探索します。スケールとしては探索物の最上位に位置することは想像に難くありません。