5編が収録されたSF短編集。
この作者の作品はこれまで数冊を読んでいますが、「テクノロジーの先行した進化と、人間の適応、世界の変革のきざし」という流れが多いです。その上で来たるべき未来が明るそうに見えるのが特色と思っています。人間の理解力を超えるものを人間が生み出して混乱が起きても、理性と知性に基づいて問題に取り組めばいつかは正しく解決されうる、と。
ひっくるめて綺麗で王道なSFを書されるという印象を抱いていました。
本短編集もSFとしての強度が高い粒ぞろいで、その印象を後押しされました。
『コラボレーション』。人間が追放された旧いインターネットに残された決済サービスのソースコードを延々と更新し続けていたのはなにか?
『常夏の夜』。被災地に効率的に救援物資を載せたドローンを送りこむ際に立ちふさがるNP困難"巡回サラリーマン問題"と"ナップザック問題"を解決した時、何が起きるか?
『公正的戦闘規範』。無人機とAIが支配する戦場が更にアップデートされるとき人間はどう関わるのか?
『第二内戦』。<N次平衡>をもたらすAIを無断使用された謎と使用料を取り立てに分断されたもう一つのアメリカに向かう。古き良きアメリカを目指したその場所で<N次平衡>が社会にもたらしたものは?
『軌道の環』。木星の大気鉱山から落ちて死にかけた地球教徒は地球へと向かう船に偶々助けられる。その船の目的は太陽系の支配図を大きく変えるもので――
いずれも局所で、しかし不可逆的で決定的な『何か』が起こってしまいます。
そのとき何が起こるかハルにはわからない。一つ言えるのは、その流れが止まらないということだ。
(公正的戦闘規範(ハヤカワ文庫JA)(Kindleの位置No.3247-3248).)
量子ネイティブの第一世代。それがもう、目の前にいる。
「セブに、冬は来ないよ」
ネリィが大人になるときこそが、量子コンピューティングの季節になる。
(公正的戦闘規範(ハヤカワ文庫JA)(Kindleの位置No.1289-1290))
理論がある。活用されるテクノロジーが鎮座する。後はそう、人間が用いるだけで、その先にどんな未来が待つのか――
これが本当に読んでいて、わくわくするんですよ。
ほんと素晴らしい作品を生み出してくれてありがたいです。
以上。長編も短編もいずれも好みに合いましたし、大好きな作家になりました。
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公正的戦闘規範 | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン