物語の世界線はβ――椎名まゆりを救い、牧瀬紅莉栖を失った世界。そしていずれは第三次世界大戦が巻き起こり、未来にディストピアが確約された時間軸。
主人公・岡部倫太郎は失意に沈み、鳳凰院凶真という名前とともに厨二病を捨てていた。
しかし牧瀬紅莉栖をモデルとしたAIの研究に関わるようになり、再度世界線を巡る戦いへ否応なしに巻き込まれていく――。
STEINS;GATEの続編にして前編であるため、当然STEINS;GATEプレイは必須です。そして前作を好んだのならば間違いなく楽しめることでしょう。
本作の前半のおおよそはβに生きる岡部倫太郎の決断と諦観とを問い直すものでした。失うことを決断した牧瀬紅莉栖を再現したAIとのコミュニケーションによって凍らせていた想いが奥底で動き出し、まゆりを救う代償に受け入れたはずの未来――第三次世界大戦を体験して収めようとしてた後悔が首をもたげる。問い直す過程で、何度も何度も狂気のように繰り返した上で取り返しのつかない敗北を喫したという現在の立ち位置はまだ足らなかったのだ――と気づいていきます。そして完全に諦めるには、まだ至っていなかったのだ、とも。
しかし彼を運命への抗いに再度立たせるのは容易なことではなく、彼一人の心の持ちようだけでは十分ではありませんでした。
ただし、運命に抗い――望む未来に辿り着く渇望は、複数の世界線を跨いできた彼だけのものではなく、一つの世界線に生きている人物にとってもそうで。
だからこそ、『彼』を知る誰もかも、『彼』を知らない彼女も、世界を揺り動かすための最低限の条件である『鳳凰院凶真』の復活を望むことになります。
その渇望が一番強かったのが椎名まゆりであり、彼女は本作のもう一人の主人公でもあったと言っていいでしょう。
【まゆり】「あの偉そうな高笑いを、また聞きたい……」
「たとえ私が、"織姫さま"になれないって分かってても……」
「それでも、私にとっての"彦星さま"は……これまでも、これからも、ずっとずっと、彼以外にはいないんだもん……」
「鳳凰院凶真に、会いたいよぅっ……!」
会いたい、会いたい、会いたい――再会の渇望。
包容力だけが取柄ではなく、強い意志を持つまゆりは待ち望んでいるだけではいられません。彼女の決断と目論見が大きく状況を変えていきます。その想いが再会から外れていくと知りつつも、ではあるのですが。
岡部倫太郎がその意図を知った時には全てがもう遅いのですが、踏ん張れとひっぱたかれるのは確かです。
それでもまあ基本ヘタレな倫太郎が立つには、もう一つありえないような奇跡もまた必要で。
【紅莉栖】「しっかりしなさい、岡部倫太郎!」
【倫太郎】「紅莉栖……」
【紅莉栖】「私の好きな鳳凰院凶真さんは、もっと自信に満ちた顔してなきゃ」
偶々飛ばされた世界線での再会で希った彼女にケツを蹴っ飛ばされたりもします。
復活せよ、立ち上がれ、と。
幾週も世界線を重ね、プレイヤは幾週もプレイし、皆の思いを知り、いい加減にしろと思い始めるかもしれません。
そう、ヒーローが不貞寝したままでは物語は締まらない。悲劇や喪失や敗北で汚辱にまみれても、最後には立ち上がるのがヒーローです。
プレイヤはとうとう溜めに溜めての復活劇を目の当たりにします。
燃える秋葉原、重なる死体、世界を支配する組織の集団が向ける銃口を前にし、
【倫太郎】「…………フ……。フフ……フフフ……フゥーハハハハハ!」
並べられる口上。戦争へとなだれ込む世界への宣戦布告。
――世界を救う厨二病のなんと格好の良いことか。
私は鳳凰院凶真にもう一度会う為にプレイを始めたこともあり、彼の高笑いをもう一度聞けるようになった際の昂揚は、シュタゲ作品の続編から得られる最高の恩寵でした。
あとは言うに及ばず。
最高の結末――シュタインズゲートは既知のもの。そこに辿り着けることは知っているのですから。
そして異なる世界線だからこそ生まれうる、未知に心を躍らせましょう。
そうそう付け加えておきたいことが残り一つ。
最後の最後でダルの好感度が絶頂に達しました。
その至はと言えば、実に楽しそうに薄笑いを浮かべている。
この史上最強のスーパーハッカーと評される人物は、鳳凰院凶真の事が大好き過ぎるのだ。
【至】「お前の死が確定してるとか、んな事、どうでもいい! やっぱ、此処へ戻って来い!」
いやー、大好き過ぎるでしょ。
以上。STEINS;GATEをプレイしたのならマストプレイかと。快作でした。
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OHP-『STEINS;GATE 0』 シュタインズ・ゲート ゼロ 公式サイト