魔性の子 雑感

 小学4年の時に神隠しに遭い、1年後に還ってきた少年・高里。彼に害を与えた人間には報いが訪れ祟ると噂されていた。高里が通う高校に教育実習で広瀬が赴任した時と同じくして高里の周囲に不穏な空気が立ち込めていく――

 十二国記のエピソード0であり、最も最初に刊行された作品になります.
 あの壮大なハイファンタジーの設定を背景にこうした作品をまず書き出したことに驚きではあるのですが、背景を知って読んでも知らずに読んでも――個人的には中学1年ごろに最初に読んだときは全く知りませんでした――十分の楽しめます。
 
 知らずに読んだ最初の感触は日本的なモダンホラーでした。嘗て「神隠し」に遭って人と異なる印象を抱かせる少年が同級生や親や世論に恐れられ、傷つけた者を化け物の形をした闇が襲い、更に恐れられる悪循環。異なるものを排斥しようとする現代において強くなった傾向が惨劇を巻き起こすのに加え、高里に絡みつく幽霊のような白い腕、「きをさがしている」とだけ告げて泡となり消える女、神隠しの時に行ったというこの世のものとは思われないまるで天国のような風景のような和的に近い非現実的なガジェットでその印象が強くなりました。
 広瀬が臨死体験を経て今生きていることが希薄となり"故国喪失"の気分を高里に重ね、結局勘違いでここではないどこかを希求しても人であるからにはどこにも行けなかった――という解釈でした。
 
 しかし再読して、現代日本への侵略という切り口もあるのだと今更ながらに膝を打つところがありました。
 十二国記というファンタジー/その世界の現実の、もう一つの世界への侵略。モダンホラーでは例えばクトゥルフがその役を担うような、それ。

「はい。ここに延王がお出ましになるというからには、水の害が起こります。どうか、部屋に戻ってください」(P474)

 侵略が起きる時のカタストロフィを経て世界を渡る資格を持つ少年。ここから彼の貴種流離譚が本格的に始まる――というのはあまりにも芳醇なシリーズへの扉であり、こちらに貌を向けて垣間見せられた世界の姿をもっともっと魅せてくれと次の話をどんどんと求めることにになるかと。


 以上。こんな感じでどんどん再読していきましょう。

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魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)
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