鬼麿斬人剣 雑感

 刀鍛冶・鬼麿の師匠が死に際、13年前の逃避行中に残した自らの名を汚す不出来な甲伏せの数打ちを折って欲しいと言い遺した。遺言を守るために鬼麿は120㎝を越える大太刀を背に師匠の嘗ての路を辿るが、その旅は奇妙な因縁と伊賀忍者の追手とで血の匂いに彩られていく――

 
 隆慶一郎による連作短編集。
 只管にチャンバラ痛快活劇です。
 中山道・野麦街道・丹波路・山陰道という街道のヒントだけで、師匠の男っぷりのする性格と残金とから推測しながら13年前の足取りを追うロードムービー的な楽しみがあります。
 また師匠が昔に巻き込まれた女と刀の事件とが13年ぶりに掘り起こされ、新たなる軋轢を生む人の業の陰を感じ、追手の伊賀忍者よりも早く不出来な刀を見つけないといけなくなったタイムリミット・サスペンスの妙で物語が加速します。
 そして何よりも殺陣。鬼麿の剣法――大太刀と怪力と刀鍛冶の在り方から生み出された唯一の流儀で切ったはったをやっていくチャンバラの快楽が実に良い。

 鬼麿は溜息をつきながら、大太刀を抜いた。まっすぐ振り上げる。普通の上段の構えではない。腹をつきだすようにして、身体をくの字に反らせ、腕は思いきり後ろに振りかぶっている。
 柄の握り方も特殊だ。両拳をくっつけて握っている。更に足は前後にではなく、真横八文字に開いている。幅はほぼ肩幅と同じ。膝もまっすぐにぴーんと伸びている。
 これは様剣術の型である。つまり据物斬りの型だ。
  (鬼麿斬人剣(Kindleの位置No.379-384))

 その刀とその剣法によって、人の生き死にも事件も快刀乱麻を断つがごとく切り伏せるのは清々しいものがありました。


 以上。良い娯楽小説でした。

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鬼麿斬人剣
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