マジスキ 由紀菜ルート読解・その1

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 この感想において由紀菜ルートを“今時珍しい、まともに捻られた嬉しくなるような時間SF”と述べたのですが、自分の中で情報が整理されていないまま何となくの理解でここまできていました。しかし今回、再プレイする機会があったので整理してみました。
 整理したのは2点で、1点目は由紀菜の時間移動に焦点をあて、2点目は作品内の時間移動に焦点をあてました。今回はその1・由紀菜の時間移動について述べています。その2はいずれまた、いつか、情報を整理し終えた時に。
 

 この整理は間違った理解に基づいているかもしれませんので、事実と異なる所があれば指摘していただければ幸いです。
 また性質上どうしようもなくネタバレですので、未プレイの方はご注意してください。









 まず条件からいきます。
 由紀菜は最初は偶発的に時間移動させられます。その原因は本作の非現実的設定『ビフレスト』によりました。『ビフレスト』とは真魔界と人間界を行き来する門を生成する魔法であり、発動した際に副作用として予想外の出来事が起こる可能性があるというもの。そして副作用で、由紀菜は時間移動させらたという訳です。
 それで初期にはビフレストが起こった時に飛ばされるのですが、次第に時間移動の能力を自由に使えるようになります。その為に意図した時間(自分の意識が経験した最新の時間軸より過去に限定)に飛ぶことが可能になります。

 
 由紀菜の存在に深く関わる主要なイベントは4つに絞れます。

 ・過去、宮崎由紀菜は母親に捨てられた。
 ・過去、主人公が自動車事故にあい、タイムリープしてきた現在の宮崎由紀菜に救われた。
 ・現在の宮崎由紀菜がタイムリープして主人公を救いに行く。
 ・未来は2つある。目時由紀菜が存在する未来か、宮崎由紀菜が存在する未来か。

 最初は主人公を助けた人物は隠されるのですが、ばればれです。で、過去において主人公を助けた宮崎由紀菜は死亡したという情報がまず提示されます。ここ主人公と宮崎由紀菜は上3つのイベントから一つの仮説を打ち立て、苦悩が生まれます。
 “自分を助けると宮崎由紀菜が死ぬ”
 自分の命と恋人の命の天秤が生じてしまった、と。
 しかし天秤にかけられているのは命だけではなかったことが、目時由紀菜という由紀菜に似た少女によって明らかになります。
 目時由紀菜は未来から来た主人公の子供なのですが、彼女は「目時由紀菜の未来では宮崎由紀菜は存在しない」と知らせます。ここにおいて前段階の理解が間違っていた明らかとなります。

【目時由紀菜】「まだ分からない? じゃあ、こう訊いてあげましょうか」
【目時由紀菜】「あの人のお母さんは、いったい、誰?」

 つまり宮崎由紀菜の母親は宮崎由紀菜だと。
 この理解をもって全てのピースが揃い、何故“目時由紀菜の世界が生まれたのか”が明らかになります。
 簡単な仮説の流れはこのようですが、この明確になる流れが結構ややこしいのでより詳細に語っていきます。
 

 必要な知識としては“親殺しのタイムパラドックス”で、タイムトラベル - Wikipedia に書かれている程度の内容を把握しておけばいいでしょう。それに作品内で由紀菜ルートの理解に必要な形で簡単に説明されますし、困ることはないと思います。


 それでは本論に行きます。
 まず宮崎由紀菜が過去の自動車事故で主人公を救って死んだ世界を想像してみましょう。

 すると宮崎由紀菜の死をもって親(=宮崎由紀菜)殺しのパラドックスが発生し、現在の時間軸に繋がる宮崎由紀菜の存在が消失します。それが次の図。

 玉突きのように事態は進み、宮崎由紀菜は世界から消失します。それによって主人公は元から宮崎由紀菜を知らないままに目時由紀菜の父親となり、目時由紀菜が存在する世界が出来上がります。余分なものを消したのが次の図となります。


 では逆に由紀菜が過去の自動車事故で主人公を助けて、なおかつ生き残った場合を考えてみると、こうなります。

 シンプルですね。
 こうなればいいじゃんという話なのですが、過去において主人公を助けた女性が死んだという事実と、未来において由紀菜が存在しないという情報から、否応がなく現在から過去の自動車事故に飛んで宮崎由紀菜が消失する手続きを繰り返さなければならないと彼らは思い込みます。


 そう。幸いなことに思い込みも甚だしく、勘違いも良い所でした。用意されていたのは奇跡のような幸せになるための準備でした。
 奇跡を成り立たせたのは『ビフレスト』です。“発動した際に副作用として予想外の出来事が起こる可能性がある”と述べましたが、宮崎由紀菜の幼女時代に発動した『ビフレスト』が誰にも想像出来ない副作用を起こしていたのです。
 それが次元移動。
 そして次元移動が起こり、更に奇跡のような確率で――或いは神の手の調整によって――、幼女だった宮崎由紀菜は“宮崎由紀菜が存在しない、未来に目時由紀菜がいる世界となった別次元”へと飛ばされます。それが下の図です

 肝なのは飛んだ時間軸は同一であり、宮崎由紀菜が幼女だった時間軸だということ。宮崎由紀菜の人生はこの世界のその時間軸にショートカットして、そこからスタートして現在へと辿り着きます。その為に彼女がこの世界において過去で死んでも、親殺しのパラドックスは発動しません。だからこそ、この世界は未確定と成り得たのです。

 自動車事故で死んだらこの未確定の世界は消えてなくなって、元あったような世界が出来上がるだけ。生きて現在に帰ったら、その時は主人公との未来という未知の幸せが待っています。

 だから主人公と宮崎由紀菜はこの世界に存在したのだからこそ、すべきことは決まりきっていました。致し方ありませんが、主人公と宮崎由紀菜は宮崎由紀菜のショートカットを知らなかったからこそ、彼らが在る世界を捉え違えることとなったのです。


 巧みだったのは世界を両立させたことによって、宮崎由紀菜の未来が修正されることで、目時由紀菜の世界も幸せになる点です。目時由紀菜は未来の時点で生まれることが確定していた“由紀菜”が消失した場合のオルタナティブとしての存在でした。宮崎由紀菜の未来が修正されることで、宮崎由紀菜が関わらないままに目時由紀菜が生まれることになります。その結果として、宮崎由紀菜の存在の記憶は主人公に作用せず、主人公は潜在意識で恋を続けることはなくなります。それで目時由紀菜の母親は横恋慕せずに済み、九条由紀菜であり続けることが出来ることになりました。
 こうして2つの世界の2人の由紀菜は幸せとなり、時間と次元を股にかけた物語はめでたしめでたしで幕を下ろすことになったのです。




 以上がこのマジスキという作品の世界となります。そしてこの世界でなければ、由紀菜は未来において主人公と幸せになることが出来ませんでした。こうした世界の択一性を成り立たせ得た設定と舞台を作った手腕はつくづく凄まじいものと評価せざるを得ません。
 鬼才・呉は健在でした。


 その2では作品内のタイムリープの詳細なタイムテーブルを作成して、何が起きたかとその意味を考察していく予定です。

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