ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム 感想

 過去に低評価をつけた2115年からみたレトロゲーのレビューという体裁を取った短編集。


 ワンアイディアを膨らませ、読者から見て未来のテクノロジーを作品内では過去や当たり前となったものとして書く手法はさして目新しいものではありません。近い系統で言えば渡辺浩弐作品となるでしょうか。
 しかしこの作品は発想のセンスが心底イカしていることによって、ちょっとそんじょそこらではみない、ハチャメチャな面白さを生み出していました。
 仮想現実アドベンチャー、ゲームを一緒にするためのアンドロイド、etc、etc。その発想を、そう転ばし、そう展開させるのかという驚きに満ちています。
 そしてそれを描写する文章がまた素晴らしかった。典雅だったり、流麗だったりする美文という訳ではありません。「ゲームレビューサイトの文体」として徹底しており、その完成度が極めて高かったのです。そうそうこういう言い回しあるよなあという、レビューサイトあるあるそのものににやにやを隠せなかったりもしましたね。
 

 それにしてもセンスが素晴らしく、伝えるべき文章もまた高度に完成している。
 結果として作品は恐ろしいぐらいに面白過ぎる傑作と化していました。
 いやもう、ほんと凄かった。
 小説を読んでいて、1ページごとに吹きだし、膝を打つという経験はめったにあるものではありません。
 

  吐き気を止めることは出来ないと悟ったプレイヤー達は、誰からともなく酔い止めを飲みはじめ。6ヶ月も経てば、酔ってでも美少女に会いたいという屈強なプレイヤーが集い、家の柱に頭を縛り付けて遊べば酔わないという画期的な攻略法(?)を開発。1年も経った頃には……、みんなゲーム内の物理法則に慣れきってしまい、むしろ現実での歩行が困難になっていきました。
     (ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム(Kindleの位置No.321-325).)


 次はどんなゲームが出てくるのか、次はどんな展開になるのか。
 読むのを止めるのが難しいですし、読み終えるのが惜しすぎました。


 また文体とセンス以外に目を向け、作品全体像で言えば、それはそれでSFとして秀逸でした。
 読者にとっての現在の風刺ともなり、ディストピアに近い未来世界における批評ともなり、なおかつゲーマーであるからこそ生じた個人の拡張/テクノロジーと人類の関係の新しい側面を表現しています。
 若干大きな物語としてのまとめ方が旧いのが気にはなりますが、そこは主眼ではないですしトータルで見れば十分傑作でお釣りが来ます。


 以上。オールタイムベスト級に好きな作品かと。

  • Link

 The video game with no name(赤野工作) - カクヨム