おひっこし 感想

 収録されているのは「おひっこし #1〜5」「少女漫画家無宿 涙のランチョン日記」「みどろヶ池に修羅を見た」の3編です。


 「おひっこし」は簡単に言うと大学生たちの青春群像劇。彼氏がいる先輩に惚れた主人公とか、主人公をずっと恋慕している幼なじみとか、主人公の友人とその幼なじみが付き合っていてでもヤッてないとか、日本女性を食いまくろうと決意した美形のイタリア人とか、何て、トレンディ――と意味判らないながら呟きたくなるドラマツルギーになっています。筋も惚れた腫れた引っ付いて別れるベタベタなのですが、それにも関わらず描出されているのは物凄く居心地の良い空間となっています。
 展開と画面の両方の構成の超絶技巧と、後は多分細かい所ではばかろうとして全くはばかりきれていない要は全開のサブカルネタによって。それにサークル棟でのだらだらした会話や、飲み会の雰囲気の堪らない大学青春臭は好きな人には大好物かと。飲み会でテンション高まって元素記号当てクイズしだすのにはにまにましました。
 台詞回しも振るっているようで垢抜けないのですが、そこが作品にはまっていました。

 さっさと終われ
 アタシの青春!!
  (#4 P138)

 と夕日に向かって、繰り返しますが夕日に向かって走る風景をありのままに成り立たせるのは流石としか言いようがありません。
 そしてメインとなっていた主人公と先輩との恋愛の結末は、

 じゃあ
 ついてきた
 モンだけは
 せいぜい大事に
 しようかな
  (#5 P160)

 多分、誰かに取って幸せで、誰かに取って幸せでなくて、ザ・青春と言う感じ。
 そんなこんなで絵話共にレベル高く面白かったです。


 「少女漫画家無宿 涙のランチョン日記」はとある18歳の処女の少女漫画家の人生の流浪を描いています。……流浪なんて真顔で言ってしまえるぐらい、その無軌道で濃密な時間の流れの描写は凄まじかったです。
 それ以上の説明をしたくない、そんな傑作です。


 「みどろヶ池に修羅を見た」は京都訪問を書いた軽めのエッセイコミック。筆致は軽いのですが、ネタは濃かったですね。


 絵に関して付け加えると、硬質な美女が大変好みに合いました。


 以上。全編レベルの高い作品集でした。

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