犬神使いと少年 感想

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 犬神に関わった少年少女たちの一幕が民俗学、科学、疑似科学など様々な角度からアプローチして書かれています。理系と文系の蘊蓄・論理が調和していて滅法面白くて、興味深い作品でした。


 まずメインストリームである犬神のネタに関しては下手に説明しても興ざめなので詳しくは述べません。張り巡らされた伏線に是非驚愕してください。


 人物配置は無駄なく精緻、立ち位置の変化は長くないにも関わらず巧緻、人物設定も見事と3拍子揃っています。特に人物設定のセンスは特筆すべきものがあり、能力と性質には私のSFマインドがびんびんに反応しました。ここのサークルさんお得意の百鬼夜行の妖怪ネタも決まっています。

 
 「人形城事件から3年」というように他の作品と緩やかな繋がりがあるのは嬉しい所でした。


 絵は水彩画調で人物絵・背景共にとんでもなくレベルが高く、音楽もED曲以外は雰囲気のある良曲揃い。高解像度の画面を含めシステムも上々、付属のread meもサービス十分で読んでいて楽しい作りでした。
 そして文章、絵、音楽、演出のトータルコーディネイトの手腕は冴えていて、ゲーム自体の完成度は文句のつけようがありません。


 だからこそシナリオ面で実に惜しい所が多々ありました。何気なく放られた些細なエピソードは膨らめば豊潤な物語になりうるのですが放置されてしまいます。残念なことにその作法は圧縮と密度につながらず、間延びに近くなってしまっていました。
 トラウマも過去作に似ているというか、手癖になっている気がしました。
 他に気になる点としては背景と文章があっていない場面があったことでしょうか。特に切れ味鋭い西大寺のモノローグでのずれは何か意図があるのかというぐらいちぐはぐでした。


 以上。現状でも素晴らしいのですが、作者の更なる進化に待ち遠しさを感じるもどかしい秀作でした。


 以下妄想。
 白沢は自我の境界の消失によって自我が拡大するというキャラクタであり、西大寺は名前の喪失による個の消失と集団への固執を有するキャラクタであると言えます。そうして見事に相反する少年と少女が再びすれ違う時を想像するとわくわくが止まりません。

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 犬神使いと少年 公式サイト