紫影のソナーニル 感想

  • 初めに

 記憶を失って地下都市に落ち、紫色の最果てを目指すリリィ。
 異常災害により300万人の消失と共に廃墟となり封鎖されたニューヨークを探索するエリシア。
 交互に語られる二人の少女の旅路が行き着く先は何処か――

 
 というような内容のスチームパンクシリーズ第5弾。ニューヨークを歩きまわり、そこで出会う人々と交流しながら物語が進んでいくロードノベルテイストでした。
 今回のミニゲームは、章と章の切れ間に誤った新聞記事の誤った箇所を指摘するものでした。正解だったら正しい新聞記事に書き換えられます。スチームパンクシリーズのゲームパートを、ノベルから操作が乖離して作品世界への介入が大きい“セレナリア→シャルノス”ラインと、作品世界の秩序を正す“インガノック→ヴァルーシア”ラインとに分けるとするならば、後者に入るでしょう。


 それでは以下、要素ごとに語っていきます。

  • 旅の目的/意味

 メインとなるリリィの道程はひたすらに“意味”を求めるものとなっていました。

『すべて』
『そう、すべて』
『あらゆるものは意味を持たない』

 何度も何度もこの言葉がリピートされます。その言葉に抗うように/その言葉に否定されるように、記憶喪失のリリィは旅の途中で出会った人々を通して『紫色の言葉』を集めながら、“意味”を考えていきます。
 記憶とはなにか?
 人生の目的とはなにか?
 愛とはなにか?
 恋とはなにか?
 考えながら、惑い、揺らぎ、旅を始めた果てを目指すという約束さえも確かではなくなります。

――意味が、生まれるの?
――あたしが、ただ頷くだけで?

 それが脇目もふらない効率的な行き方のしょうがない障壁という訳ではなく、ふらふらうろうろして、いらん事に首を突っ込んだせいなのだから、おいおいと言いたい所です。リリィ――少女は無駄に意地を張って、勝手に傷ついて、あまりにも面倒くさい生き物でした。

【リリィ】あたし、わからないよ。
     何もわからない。
     ほんとに、わかんないことばっかり。
     今だって訳わかんなくて。
     何したらいいのか、
     本当は、わからないんだ。

 だけども、だからこそ、彼女が失って得たものの強度は増したのでしょう。
 そう。肝なのは真理でも答えでもなく、求めたのは“意味”だったということで。おしまいを語るのではなく、物語を語ることに繋がって、なかなかにロードノベル物の王道を行きました。

  • 旅の道連れ/A

 感情を出さない空気頭の車掌にして、リリィに尽くしてピンチになったら体を張って助けるという王子様キャラでした。
 戦闘シーンは何時ものようにあっさりしたものであり、戦闘キャラとしては主役を張るのに微妙なのですが、日常でリリィと絡むシーンは活き活きとしていました。率直に言ってむっつりすけべの変態でした。「問題ないよ」「大丈夫」などとのたまいつつ、いい感じにリリィを羞恥の混乱においやります。
 何せ何故かリリィの服を脱がせるのはAだけであり、毎回毎回いそいそと着替えさせます。また風呂の時は必要ないのにブラシでごしごしと洗うわ、無駄にじーっと見つめるわ、いやはや。
 彼、溜まってたんだろうなあ、としみじみ思いました。
 変態がド変態に達したのはエロシーン。本作のエロシーンはこれまたシリーズのご多分に漏れず、行為を交わす心情描写をメインにして、エロ度は薄いものでした。にも関わらず変態だー!と叫びたい言動が炸裂していました。
 曰く、

【A】保たないな。

 リリィ(乙女ちっく)もリリィ(乙女ちっく)なら、A(むっつり)もA(むっつり)。ことこここに漸く至って、お似合いですねと生温かく見守る気分になりました。

  • 少女漫画ちっく

 付け加えるなら大時代的。純愛に純愛。不毛なまでにピュアラブでした。プラトニックという言葉でさえ生ぬるい。
 この要素ではリリィも負けていないのですが、質的にエリシアのターン/独断場でした。ニューヨークが廃墟になる前の、エリシアの学園時代が間章で語られるのですが、おっそろしいまでに少女をしていました。エリシアは隙あらば空を見つめてふわふわふわふわする、独特な感覚を持った箱入り少女でした。類型なのですが、箱入りの妙なセンスの書き方が巧みであり、声がこれまたころころ可愛らしく、絵は頬をふにふにしたい柔らかさで――あっという間に恋する乙女になった萌えダメージときたら堪らない。危なっかしさに微笑ましくはらはらしました。


 とまあ、本作では少女2人を主人公にしたこともあり、恋する乙女の心理に焦点を置いて恋愛沙汰が語られました。

  • 全体像

 マクロ/どうしようもなくスチームパンクだった旅と、ミクロ/少女の心理とを並列し、一つの想いに昇華させた物語をまとめる手腕は上々でした。テーマと心理については上記しましたし、スチームパンク的なガジェット/人物に関しても良質なセンスは発揮されました。特にヘミングウェイには感心しましたね。
 ただし、まとめ方が上々ですが、出来が良かったと言い切れないのが辛い所。最後の流れは個人的にはがっかりでした。好き好きなのでご自分の目で確認していただきたいですが、もっと観たことがない風景を見せて欲しかったです。
 あと今までと比べて短く感じたのですが、何故でしょうかね。

  • まとめ

 以上。スチームパンクシリーズ好きとしては良い気分転換となった小品でした。スチームパンクを知らなくて初めて手に取るにはお薦めしません。

  • Link

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