間口は広く、切り方もかなり多彩に成り得るのですが、取り敢えず10作に絞ってみました。……それを名目に好きな小説を並べてみた感もあるのですが、まあセレクションが古臭いは禁句で一つどうぞ。
- 超人
「理解」(テッド・チャン、『あなたの人生の物語』所有)
『人間以上』(シオドア・スタージョン)
上は拡張された認識による戦闘描写の極地の一つ。ロミオ作品の戦闘描写への物差しとして最適です。
下は超人でありながら人としての出来そこないたちが集合し起こりうる何かを書いています。参考までに。
- 認識の進化
『果しなき流れの果に』(小松左京)
途端、意識と認知が縦方向に引き延ばされる。
事象は縦割り。
時間は交差する非論理の流れだと知る。
俺はハシゴをよじのぼっていく。
高く、どこまでも高く。
山よりも空よりも高く、宇宙よりも時間よりも上…
そこからは、万物が見えた。
(Moon【ミラクル大冒険】より)
……から続くのは、拡張された認識による、冷たい唯物の関係性と、知ってはいけない定義の連続でした。限度を超えてしまった理解/認知の描写を高度に達成した作品に『果しなき流れの果に』があるのですが、それに勝るとも劣らない破格の描写でした。
- 超越者/異種との接触
『パンドラ』(谷 甲州)
個人的に印象深かった描写として10月23日における街中の植物があります。
そこには、過成長した奇怪な植物が生い茂っていた。
街中の目立たない、光もささないような場所なのに。
そいつは、いびつな美をたたえてふくれあがっていた。
膨満していた。
(10月23日(土))
偶発的に街中で出会った異変によって今何か理解の及ばない大変なことが起こっているのではないか――と暗に示す技法の良い一例でしょう。
『パンドラ』はそうした些細で大きい自然の異変に対して情報収集、分析、理解というプロセスを愚直に踏み、人類社会で何が起こるかをシミュレートした傑作です。成り得たかもしれない作品の在り方の一つとしてお薦めです、
- 超越者へのアクセス
『神は沈黙せず』(山本弘)
『神狩り』(山田正紀)
ただただ、Moon編における加島桜の妄念の意味を知るために。
思考し、考察し、飛躍し、到達しえた。なおかつ影響さえも与え得た。傑物としか言い様がないでしょう。
- 少年と戦争
『裸者と裸者』(打海文三)
この小説を薦めるのは趣味というか、不満の解消というか。Terra編での瑚太郎の戦士描写は凡な人間がいかにして凡ながらに技能を獲得して変容してくのかを緻密に書いており、マブラヴ以来の達成であり大したものでした。しかしレベルが高いからこそ、より一層のハードさを求めてしまう読者としての過大な要求が生まれてしまったのも確かです。そうした少年が戦争で変容していく小説の最上級が『裸者と裸者』かなーと考えています。
- 人を揺るがす“うた”
「沈黙」(古川日出男、『沈黙/アビシニアン』所有)
ルコという原初の音楽を追求しつつ、姉と弟が正義と悪の戦いを繰り広げる――という卑近で壮大な物凄い傑作。ルコは朱音がやろうとした“歌の力”の一つの結実とも言え、Rewrite本作で魅力を充分に発揮され得なかったうたの代替として味わえます。
- 大トリック
『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン)
『あなたの魂に安らぎあれ』(神林長平)
トリックが意味するところはアレであり、ひどいネタバレですが、『星を継ぐもの』を挙げる魅力に勝てませんでした。取り敢えず“あのネタ”に関してはこの2作がスタンダードな傑作かなと。後はハインラインを経由すれば大体古典は押さえられるでしょう。以降は好みで。