オーブランの少女 感想

 独立した短編5編が収録されたミステリ短編集。
 文庫版が発売されたのが2016年であり、今回2019年8月に購入してから4か月目にして読んだのですが、只管後悔しています。なんで今まで読んでこなかったんだろう、と。


 OHPの紹介文に書いてあるように、少女を巡る短編が詰め込まれています。醜い顔の姉と美しい妹に愚かな医者が嵌められる「仮面」、少女が父親を探しに来る後味が苦い「大雨とトマト」、女学校の同級生がひた隠しにしていた謎を守る百合ミステリの「片想い」、川を流れてきた首なし死体を契機に愚かな王女の行為により架空の国の終焉に至った歌が奏でられる「氷の皇国」。
 どれも独立しているのですが、少女を巡るミステリとして統一した傾向がありました。というのもどの短編も基本的には現在進行形で犯罪は起こらず、かつて起きてしまった何事かの後始末に近いものがあります。その上でホワイダニットとフーダニットの妙なる混合が為されていました。
 こうして謎が提示され解明されることで、少女たちの動機――生きる意志が明らかとなり、少女たちが何者かが浮かび上がります。たとえそれが良きにしろ悪きにしろ、彼女たちのそれが生き方なのだ/生き方だったのだと語りかけてくるのです。そして今ここの現在とかつてあった過去とを重奏で綴られた結果として、なんとしてでも守りたい者があって守り抜いてこれから生きていくのだとと、また心を凍らす犯罪に巻き込まれた後にも人生は続いていったのだと、物語を上手く開きながら幕を下ろすことを達成していました。


 上に上げた作品は秀作揃いではありましたが、あえて列記しなかった表題作「オーブランの少女」は頭抜けた傑作でした。これまで読まずにいて悔いている原因でもあります。
 未読の方はせめてこの短編だけでも読んで欲しい。

 オーブランほど美しい庭は見たことがない。
  (オーブランの少女(創元推理文庫)(Kindleの位置No.24-25))

 という出だしで始まり、美しい庭を管理する老姉妹に訪れた惨劇が語られていきます。
 美しい庭と穏やかな老姉妹に対比し、病弱や奇形の女生徒だけが集められた寄宿舎の陰鬱たる酸鼻をきわめる過去と、生み出された憎悪の強さと、現在起きた救いようもどうしようもなさの無常さという構図が見事。そして全てをひっくるめてなにもかもが眩暈がするほど美しかった。
 矢でも鉄砲でも皆川博子さんでも持ってこいと言いたくなるぐらいゾッコン惚れこんでしまいましたね。
 こういう短編を読みたくで読書をしているのだと改めて自分の趣味の目的を再確認した次第でもあります。


 以上。表題作「オーブランの少女」は個人的にはオールタイムベスト級だったかと。

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 オーブランの少女 - 深緑野分|東京創元社

 オーブランの少女 (創元推理文庫)
B01D1R4VLW