ダンケルク 雑感

 第二次世界大戦におけるダンケルクの撤退作戦を描いた戦争映画。
 大きなストーリーを追うというよりも、その場面その場面を体験するという没入感が極めて強い作品となっていました。


 複雑な仕掛けはなく、時間は最初からずれていると宣言されています。
 one week――港でドイツ陸軍に戦線を圧され空軍に空爆される中で英国に脱出するためあの手この手で船を出そうとする陸地での撤退戦。
 one day――ポンポン船の老いた船長と2人の少年が英国から兵らを救出するために向かう海路。
 one hour――往復ぎりぎりに近い燃料しか積んでいない戦闘機スピットファイアを操作しドイツ戦闘機に対抗する空。
 それぞれに限定された時間と空間で、港では一般兵士としてどんなことをしてでも生きて逃げ帰ると行動するが敵と情勢に翻弄されるしかないという在り方、海では救うために立ちあがったという矜持を保てるかという選択、空ではただ一機残り燃料も少ない劣悪な環境で敵を撃ち落とせるかという目的――シチュエーションを作りこむことで強度の高い迫真性を築き上げていました。
 取り分け港の1週間は、船に無理やり乗る→撃沈される→命からがら逃げだす→船に乗る→撃沈される→命からがら逃げ出す――の連続であり、本当に地獄めいていました。あの恐怖と混乱は映画としてなかなか味わえるものではありません。


 また音響とBGMも作品を見事に彩っていました。


 こんなあまりにも合い過ぎた音を耳にしながら、否応なしに場面にのめりこませられるに違いありません。

 
 映像は当然素晴らしい。血しぶきとか爆発とか空戦とか判りやすい派手さはないものの迫力がありました。
 幾つかはっと感嘆した場面を上げてみます。
 一つは出だし。包囲され逃げ場はないと謳うドイツの広報誌が舞う妙に綺麗な街並みを見えない敵に撃たれながら走り抜けた先には、暗い海と空と、広い砂浜と、力なく並ぶ撤退兵の列――。非常に魅力的な冒頭ではないかと。
 次いで中盤。海岸に打ち上げられているのに逃げ込んだ商船に銃弾が撃ちこまれる場面。突然撃ちこまれる驚愕から始まるあの恐怖と混乱は実に感情を乱されました。
 そしてスピットファイアの最後の飛行に関して。陸/海/空――なんだかんだで目的は皆達したという雰囲気の中、ただ一人/ただ一機が故国とは逆に緩やかに滑空していく様は本当に美しかった。あの最後のあんまりにも絵に映える絵面はやり過ぎ感満載ですが、ああいうのは大好きなので良し。

 
 ただし迫力のある音楽と映像は追体験を強化するためだけに働くので、映画を見るだけに時間が費やされる劇場での視聴がお薦め。家のテレビで観ると『或る戦争の体験』としては楽しめない可能性が高いです。


 以上。劇場で観て良かったです。

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 OHP-映画『ダンケルク』オフィシャルサイト


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