WE'LL NEVER FIGHT ALONE
この副題を直訳すれば“我々は誰も一人では戦わないだろう”、或いは意訳して“何人も一人では戦わせない”。
この副題――宣言が物語に、システムに響いていました。
- お話・その1
帝国軍により王国は滅ぼされた。亡国の王女は逃げる最中に盗賊王の少年と出会い、王国奪還の旅に出る――
そんなダブルミーニングでの王道のお話。作中で費やされる説明は少ないものの、堂々たる戦記物としての姿を現します。この王女が国を取り戻す王道はそんなに――むしろ全くと言っていいほど綺麗に進んでいきません。
王女の始まりの旅は敵である国を奪った帝国軍を討つよりも、味方になり得た敵を討つものでした。経過として、種族を滅ぼし、王国の貴族の家系を滅ぼしていきます。それに物語が始まる前に物語を閉じようとした賢者は引きこもり、王家のためには再び取り入れる訳には行きません。だから共にするのは騎士と、盗賊王と、滅ぼした種族の末裔と、片方を滅ぼすことで救われた家の主人(滅ぼした方に仄かな好意を抱いていたりするのだが!)達。寄せ集めの混合軍もいい所です。
逆に何よりも単純な行為――敵・帝国軍のキャラクターを殺すのが1番難しかったりします。
そして王女は血に塗れた奪還の道に胸を痛めながらも、見事に王都開放を成し遂げます。紛れもない彼女が始めた王道の正しい足取りの結果です。
正直、ここらへんまでは胸を痛める戦闘がありながらも予想を裏切ることがない退屈さがあったのは確かです。しかし前半最後の山場である王都開放のラストから戦記物として深みを増して行きました。
王道を成し遂げたのが王女ユグドラならば、道半ばにして逸れようとしたのもユグドラの行動で。誰も知らない内に殺すのを悩むユグドラは胸に激情――家族を殺された正統なる怨みを持っていて、怨みの果たす先を見つけたからには突っ走して行きます。
殺すために。
結局捕われてしまい、彼女は今の今まで集めながらも周りを見ていなかったことが明白になります。それで苦労して救出されて、省みることで自分の行動の指針に修正を加えます。一人で戦っているのではない、と。この流れによって、ユグドラの心中は当たり前ですが清廉潔白なだけではない人間くささがあると示されますし、以降重要な意味を帯びてきます。
さて、これで前半が終わり王女と王国が揃い、物語はようやく落ち着きを見せようとするので、一旦ここまでとし、システムについて軽く触れていきます。
- システム
本作の戦闘は独自システム・ユニゾンシステムによって、最初に述べたような多VS多を実現しています。
戦場を動く最小の単位は1unitであり、職種別に固有の人数で構成されています。unitを動かして敵に隣接させ、攻撃を仕掛けるまでは普通です。ここで戦闘を仕掛けたunit固有のフォーメーション内に存在するunit全てが戦闘に参加することになるのです。このユニゾンシステムは味方と敵両方で取り入れられます。フォーメーション内のunit全てが参加し、順序に沿ってunitとunitが構成するメンバーが生き残っていた方が勝利となる勝負をし、全てが終了すると1戦闘終了となります。
勝負に関係する値はunitのパラメータの他に、武器、カード、地形、時間(昼夕夜)があります。地形・時間は判りやすいので説明不要でしょう。
武器は色々種類はありますが基本は3竦みとなっています。斧が槍に強く、槍は剣に強く、剣は斧に強い、という感じです。
カードはターンの開始に引くカードは2つの数字と1つのスキルによって成り立っています。1つの値はpowerでこれは判りやすいでしょう。もう一つが移動力でフィールド上を歩ける歩数となります。その歩数を歩ききれば、それ以上は歩けません。スキルは戦闘中にゲージがフルに貯まり、条件を満たした時に発動します。
これらのパラメータを総合した優劣が戦闘前に表示されるので出来るだけ優位な条件でユニゾンを組もうというのが、攻略の要となりますね。
後は最短ターンクリアのために、敵のユニゾンを考えるとか色々ありますが、詳しくなりすぎるので割愛します。
- お話・その2
……とぐだぐだと特異なシステムについて述べてきたのは理由があります。
“お話・その1”で述べた以降、ユグドラは王道を歩み続けます。今まで心痛めてきた原因である戦争を終わらせるために王となる決意をするのです。この王となる手続きにおいて、システムと戦闘の融合が更に見事に推し進まれてテンションが絶頂となり、以降そのテンションがほぼ継続されるからです。
ここにおいて、ゲームが進みカードが揃いシステムが完成することで、戦闘の表現たるシステムと、システムの表現たる戦闘とが見事に美しいレベルで表裏一体と化していました。
絶頂となった戦闘はユグドラとルシエナのものです。
ルシエナはそれまでも出てくるのですが、ヴァルキリーを率いていて保有カードは“レヴォリューション”でした。効果は
敵のヘッド以外を全て倒す
こうでなくてはなりませんでした。彼女はそのカードを持って王となろうとするユグドラの前に現れ、ユグドラ以外を倒す技がなくてはならなかったのです。そしてユグドラと1対1になった時には圧倒するpowerを有しています。
対してユグドラ。彼女の王の証はずっと持っていた聖剣と新たに得た彼女専用のスキルを持つ“ジハード”――Judgment of justice/正義の裁き。条件はユグドラが1人となり、効果は
敵を一人残らず倒す
だからこそユグドラは新たに得た力を発揮するには一人になるしかありません。
従って2人が戦えば、決着は一瞬でしたし、光芒のように一瞬であるべきでした。だらだらした戦いだと、ゲージが貯まっていない可能性があるから。ルシエナが力を振り絞ってユグドラを追い詰め、ユグドラは倒されようとする瞬間にスキルを振う――この×を押す攻防と来たら、身震いしましたね。
他にもシステムとシナリオの美しい手の組み合いはあって、例えば味方を消滅させて1人になる代わりに戦闘力が激増するガルカーサの能力だったりするのですが、プレイしてのお楽しみということで。
さて、それから。
王女は王になってから帝国への侵略者となります。多分、最悪の形、聖剣の下に正義を掲げて、戦争を終わらせるために相手を滅亡させることを選びます。水責めをするような、敵の家族を殺すような、有象無象の義勇軍を鏖にするような。
そこから彼らの戦いの言葉は悲愴を帯びていくのですが、恐ろしいのはユグドラが王道の最中であることで、王道の始まりであった盗賊王の少年・ミラノを借りれば、「国を治めたり国を滅ぼしたりを勉強している」のです。付け加えれば振り返って見ても、どれだけ死体を積み重ねても、王としての間違いは侵さない正しさを常に発揮してきたのです。形としては聖剣で、思いとしてはジハード/正義の裁きで。
こうした後半の違わぬからこその王道の重苦しさの表現は1級品と言っていいほどで、自らプレイする戦記物としては最高の部類でした。
結末は予想通り。
ユグドラ「カルカーサを倒したとき、私はこの地上にある唯一の王となったのよ」
一人ではなかったことから始まった戦いは地上から戦闘を消し全てを終わらそうとし、決断は一人――王道の果てのユグドラに託されます。
どちらを選ぶにせよ、ユグドラが王であるからこそ前述したように間違いはありません。が、聖剣の下の決断の方が流れ的にも、周回プレイ的にも正史っぽいです。というか、何よりもフィナーレを飾るにあたって格好いい。
ユグドラ「これは聖剣として使うと決めた」
そして、『Lost an Angel』。粛清、神殺し――何て、正しい金枝の行使。
しかし、そこからがねー。蛇足というかキリがいいっちゃいいのですが、そこで終わるのかーという感じです。
ま、ユグドラの話としてではなく、歴史――Dept.Heaven Episodes として語られることになるのでしょう。
以上。一人の王女が王になる物語として、特異なシステムのSRPGとして、システムとシナリオの見事な融合として、大変面白かったです。
あと一目でわかるでしょうが絵はきゆづきさとこさんでかなり可愛らしいです。
- Link
OHP-ユグドラ・ユニオン
参考リンク-ユグドラ PSP Wiki