虚構推理短編集 岩永琴子の出現  雑感

 一つ目一つ足のおひいさま・岩永琴子が妖怪から持ち込まれる謎を解決するミステリの短編集。
 
 短編はそれぞれ2つの流れに分けられます。

 一つは妖怪が犯行現場を見て、犯人の人間の異常行動を不気味に思うパターン。
  ・死体を沼に捨てながら「見つけてくれるとよいのだけれど」と呟いたのはなぜか。
  ・死体をギロチンにかけながら「これで大丈夫なはずだ」と呟いて自首したのはなぜか。

 あるいは妖怪の超自然の行動が人間の犯罪を歪めたり、利用されたりするパターン。
  ・狸が山中で饂飩の自動販売機に化けていたことから自明の犯人にアリバイが出来てしまった顛末。
  ・恨みで作られた木人形が海で魚を大量虐殺する理由は何か。
 
 いずれもこれまでの作者の作品群のように、人間の移り気・狂気を計算に入れて理が通ったロジックを構築する手腕が光っていました。
 というのも設定作りが上手く、琴子は名探偵のように謎を解き明かすだけではなく、謎を解決する<知の神>として働いてるのです。人間の感情と非合理の言動を理解できない妖怪の腑に落ちて納得できるように事態を収束させるためには、正しい真理への到達だけでは通用しません。
 道理のないはずの異常に筋道をたてて、なおかつそのロジックが見た目の混乱の言語化の単純な正しさよりも尤もらしさを上回らないといけない。
 その手続きにミステリの神髄が宿っていました。


 以上。やはりこの作者の作品は大好きです。このシリーズでも良いですし、全く別の作品でも良いので、次作を楽しみにしています。

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