FLOWERS 秋篇 雑感

 これまで聖アングレカム学院に伝わる七不思議に纏わる事件が起こってきた。
 春――"血塗れのメアリー"
 夏――"碧身のフックマン"
 そして秋。生徒会長・八代譲葉は"寄宿舎のシェイプシフター""彷徨えるウェンディゴ"に纏わる事件に巻き込まれる。
 同時に、幼馴染の小御門ネリネとの長い付き合いに別の関係性を持たせようとする恋物語となる――


 女学院・聖アングレカム学院を舞台とした百合学園ミステリADVの第3弾。
 今回は好きか嫌いかとか、趣味か趣味かじゃないかで言おうとすると千々に乱れます。
 

 メインの譲葉を主人公とするストーリーは悪くなかったです。


 ネリネの親友としての距離の近い言動にやきもきしながら、譲葉を慕う下級生からの純粋なアタックにくらっとくる三角関係物としてにやにやできました。
 最初は小学生以来の付き合いのネリネとの関係性が強すぎて、三角関係として釣り合うのかという問題と、これまでほとんど余計なことしかしないトリックスターだった双子がヒロイン格になることに違和感を感じました。しかし物語が進むにつれて確かに双子がヒロイン(ただしサブ)でもわかると良い顔で頷けるようになっていきました。
 そして佳境に差し掛かり、大本命のネリネが何を考えているのかと過去に何があったのか判明してから、幼馴染と恋愛する心理的な変容描写において冴えに冴えわたるようになります。
 そんなこんなで全体的に手つきは巧みでした。

 
 ただし結末がすっごい気に食わない。なぜそうなる!!!と絶叫してしまいました。
 ……いや、理屈はわかるのですよ。出来も良いのですよ。
 敬虔なカトリック教徒のネリネが譲葉に振りむくためには、身以外の何もかも捨てるという儀式を経ないと心理的に納得できなかった、と。
 それに、後の行方は杳として誰も知らない――というの、それはそれで小綺麗な終わり方なのも確か。
 加えて、これまで何人か途中で学園から消えたという話は語られますし、春においてメインキャラの1人がいなくなりました。しかしじゃあ消えていった人物が実際どういう想いでどういう行為を取って消えていったのかというのは語られてこなかったので、いつのまにやらいなくなる現象に対して現実感が少し薄れていました。今回これが一つのモデルケースとなり、春と秋において2回重ねることで『学園から本当に人物がいつの間にか消える』のだというのが最後の巻を前にして重みが増したかもしれません。
 というか、あれが2人に取って幸せの絶頂なんだからつべこべ言うなというのもわかる。
 でもですねー、いやー、と結局のところは愛着のわいたキャラがああした結末を迎えるのは趣味じゃないということになります。
 次巻以降で何らかの言及があると良いなあと願っています。


 ただし蘇芳を主役とするシリーズの大きな流れとしては大好きレベル。
 千尋の谷に落とされた明晰なる者がどう振る舞うのか――その創作物の一つとして最高でした。
 蘇芳はこれまで主役を張ってこなかった夏・秋でも名探偵としての格を落とさず、逆に上げてきていました。そして今回、彼女が希求する真実の前に最後の最大の壁が立ちはだかります。
 春の弱い彼女であれば、恐らくは乗り越えられなかった。
 夏の脆い彼女でも、難しかった。
 しかし必ず真相を明らかにすると決意を燃やし、博識と推理を研ぎ澄ませて準備をしてきた蘇芳が、その障壁を前にして、渾身をかけた時にどうなるかは明らかで。

私を覗いているのは誰なのだろう、私自身?それとも――
【譲葉】「入って佳いと言ってはいないのだがね」
辛辣な言葉を投げかけたが、意に返さぬよう暗くうち沈んだ部屋に足音が響き、
【蘇芳】「――討論会を終えました」
と、白羽蘇芳が言った。
【譲葉】「…………」
【蘇芳】「…………」
生きているのか死んでいるのか分からない程の気配。
だが決して無視できない幽鬼のような少女は、私を値踏みするように見詰めていた。

闇を纏った白羽蘇芳はゾッとするほどに壮美だった。
いつもは見る者の大切に隠している原風景を揺さぶる美だが、傍らに立つ少女のそれは魂ごと抜かれてしまうほどの美だ。
【蘇芳】「――貴女が私をけしかけたのですよ」

 この一連のぞくぞくする描写が読めただけでも、結末に目をつぶってこの作品は持ちあげたい。
 あえて文句をつけるなら、EXTRAの蘇芳視点があまりにもあっさりしすぎていて、理知が躍動する描写を楽しめない所にあります。まあそれだけで一本作れてしまうのでしょうがないですかね。 
 明晰なる者――名探偵が日常どう振る舞うのかをそのものを取り上げたものに例えば城平京作品があるのですが、このシリーズもその系譜に数えたいところ。
 
 
 以上。名探偵が最後の舞台に立ち、次回冬来たる。シリーズを通してどういう結末に至るのかは括目して見たいと思います。

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<シリーズ感想>
FLOWERS 春篇 雑感 - ここにいないのは
FLOWERS 夏篇 雑感 - ここにいないのは