ひまわり 感想

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 人類は先人の知識、知恵、技術を引継ぎながら徐々に前へと進んでいきます。
 それを賛美すること、非難することはたやすいです。
 進み方は遅々としてまだるっこしく、一人の天才はともかく、多数の秀才たちの場合現在の最先端に追いつくまで待たなくてはならない。じゃあ、その系譜を効率化出来ないだろうかと思考実験し、大法螺を吹くのがSFの役目。本作ではその技術を求めて変容していく人間が描かれています。
 世界を作るための要素の配置は技巧的で、マクロにおいては行き止まりつつある社会、遠く宇宙を目指し邁進する大企業、2年前の大事故etcを、ミクロでは月面の裏から表まで踏破し英雄と呼ばれた男、大企業のトップ、驚異の能力を持つ少女たちetcが技術の追求と使用の為に、しかし露骨ではなくたくみに散りばめられています。
 人物配置も過去に英雄・雨宮大吾、大企業のトップ・西園寺明、研究者・日向宗一郎博士を、現在では彼らの息子・娘を、と露骨に対称的な構造にしています。
 その中でも主人公は日向宗一郎の息子であり、2年前の大事故以来記憶を無くした少年・陽一に割り当てられます。過去に縛られる大人になるか、未来しかない子供になりきるかが物語の分かれ目なのですが、その選択がそのまま人類に対してどう向き合うかに直結します。実存主義にも似た単純明快かつ夜郎自大な意味づけは優れてSFでした。
 過去の人物たちは何だかんだ言って、皆ひとつの目的を掲げて同じ方向を向いていました。

 人類を救う

 そのために論理を倫理の上に置き、エゴを振りかざし、必要な犠牲は必要な分だけ払います。没個性の人類という集団を救うという目的を持ってしまった人間はそうしなければならないというのが厳しい所で、答えは途中で降りる人には見られません。
 だから、これは子供の行い。大人には出来ません。
 主人公がどう選び、物語がどう転ぶかは是非自分の目で確かめてください。主人公自身の人生の物語としても見所は十分あります。

 
 そして最後に現れる敵。彼ら――子供たち――が生み出し、選んだ目的を反転したアンチテーゼを仄めかし、今までの物語で語られた過去と未来を掻き消す壮大な歴史を感じさせ、カーテンコールとなります。


 いやあ、素晴らしい。人物配置、物語の構造が渾然一体となった傑作でした。

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 OHP-ぶらんくのーと
 ミトコンドリア - Wikipedia
 Mitochondrial Memory Banks: Calcium Stores Keep a Record of Neuronal Stimulation -- Kaczmarek 115 (3): 347 -- The Journal of General Physiology