劇場版 空の境界 未来福音 感想

 公開初日朝一で観てきました。正直劇場版らっきょは趣味ではないのですが、奈須きのこによる書下ろし小説が配布されるとなれば行く以外の未来がないのでした。
 そんなわけでメインが『終末録音』でオマケが劇場版だったのですが、観たファーストインプレッションを一言でまとめるとこうなります。
 ――や、傑作じゃん、と。
 たとえば7章でやってのけたような小説の映像化での構成要素のスポイルが全くなく、むしろ映像により『未来福音』というパッケージを更に進化させていました。これなら観る甲斐があったというものです。
 それでは2本立てなので、それぞれに関して簡単に感想をば。

 同人誌版に収録されていた武内さんの漫画を映像にしたものです。パンフレットに『制作するにあたり前提としたのは、同人誌版で武内崇氏の描いた絵柄を再現しようという姿勢だった。』とあるのですが、その姿勢は見事なアニメーションとして結実していました。漫画のようなキャラクタたちが違和感なく動いていました。リアル系も悪くはないですが、こちらのあえて戯画化されたメリハリのある表情の方が好きですね。式の赤面とかもう、ごちそうさまでしたと。あと猫専門の作画監督による黒猫はちょう猫ぽかったですね、ええ。実に可愛いかった。
 3本立てなのですが、個人的には静乃メインの『1998年10月』が白眉でした。もう光をとらえないけぶる目にばきゅーんとやられました。杖を突いて歩く姿もセクシーであり、能登麻美子さんの淡々とした喋り方は残骸の発語のようでマッチしていました。ああ、彼女に凶れ!と言われたい。それはともかく、話は少女の夜郎自大で片付くのですが、終わった物語の後に、かつての罪といまの偽に心を痛めながら、どうしても目の前の他人と思えない誰かを救わざるを得なかった藤乃の在り方に心打たれました。――終わった残骸がまだ未来へ熱を持っていたことは福音以外のなにものでもなく。漫画では伝わり切れなかった感情が声と動きにより、鮮明になっていましたし、これは映像で観れて良かったですね。

 2種の未来視、3人の未来視の物語。
 まずもって、この作品は瀬尾静音を彼女として動かせた時点で成功が約束されていたと断言してしまいましょう。<予測>の未来視の少女の気の弱さや、意志の強さや、乙女っぷりが様になる絵になっていました。ころころと表情が変わり、ちまちまと動き、おっかなびっくり発声し、猫らしい犬のような可愛らしさを振りまいていました。本当にむちゃくちゃ可愛い女子が生きるのを観る、それだけでも快楽なのだなあと。
 そして素晴らしいことに、この魅力はちきれる少女と黒桐の<予測>に関する問答パートと平行に流れる、<測定>の未来視の爆弾魔のパートも負けず劣らず良い出来でした。驚くべきことに、キャラクタの魅力においても負けていません。爆弾魔/倉蜜メルカは10年経って『安っぽいチンピラ』と称されるだけあり映像化されても映像だけでは弱い所がありました。強度を担保していたのは石田彰さんの声です。厭世的で安っぽいのに柄が悪くない喋り口調により、駄目な青年が物語の端役を張るのに注意をそらさない魔術をかけていました。声だけでここまでキャラ立ちするのかというぐらいに芸達者でした。あっぱれです。というか、この劇場版未来福音は声優さんの演技が誰もかれもが質が高く見事であり、耳にとっても豊饒な体験でした。
 さて最後に。

 ―――いや、こんな未来もあるんだねえ、ダメだわ、死ぬよアンタ。何をやっても、何をしてもアンタには未来というものがない

 その宣告を受けた"彼"の笑顔と背中とで、長かった物語は幕が閉じられます。過去に形になった作品で未来の<測定>は既に。最高の幕切れを最高の映像にしていました。重ね重ね、映像で観れて良かったシーンばかりで満足です。

  • パンフレット

 奈須きのこ武内崇両名から映像・声優らのスタッフインタビュー、設定資料、こやまひろかずと武内崇のイラストが載っています。インタビューはどうして未来福音を書いたのかという経緯がわかりますし、大体知りたいことが聞かれてあり、読めて良かったですし、街の3Dなどもの設定も興味深いものがありました。
 ただそうした読んでいた感想もイラストが目に入った瞬間、その美麗さに胸を打たれて吹っ飛びました。
 まずはこやまひろかずの未那。大変良いロリであり、大変良いものでした。ニーソとスカートの間の太ももに顔をうずめたい。
 次に武内崇のイラスト。『2013年9月』と題され、描かれた式。なんて穏やかな、その笑顔――。この絵を見るためだけでもパンフレットはマストバイです。

  • まとめ

 以上。簡単に言えば傑作。2時間堪能しました。時間に余裕があれば、もう1回劇場で観たいですねー

  • Link

 未来福音 | 空の境界

空の境界 未来福音 (星海社文庫)
奈須 きのこ
講談社 (2011-11-11)
売り上げランキング: 168