公正戦という対称戦争が広がった近未来、152戦無敗の戦争コンサルタントであるイグナシオ<少佐>はコロンビアから独立宣言した都市の防衛戦で突如捕虜を虐殺する。目の当たりしたジャーナリストが上げたレポートは事実確認スコアが低く配信が拒否される。その戦争犯罪はなぜ起きたのか――
藤井太洋氏による長編SF小説。
非常に評判が良かったので早速読んでみたのですが、成程これは素晴らしいと唸る傑作でした。
これまでの作品で確かな腕を見せつけてきたその描写力で、本作ではこれまで以上に近未来の人と社会とテクノロジーの想像と創造とが達成されています。――混在が進んで人種の外見の特徴の出方が一定ではなくなり、フェイクニュースにより分断されたアメリカがインターネットの信頼度の保証により再度統合され、人体通信の帯域を浸透圧調整薬によって効率化し生体インプラントを現実のものとし、ドローンやAIの発達によって戦闘と戦争の形が変わり殺戮対象のターゲットの限定と勝敗の条件付けがより高度に進んでいる。
そうして登場人物がそれを当たり前であるかのようにさりげなく取り上げることでそうありうるかのように進んだ時間軸を構築されているからこそ、冒頭で強烈に提示された謎が深まっていきます。
――ではいったい、なぜ、戦闘が終わった後に兵士は殺され、確かなはずの記事の信頼性が毀損されたのか。
築き上げた未来と人を、それはほんとうに確かなものなのかと切り込んでいくのです。
曰く、記事の信頼性を担保しているスコア付けを支える統計と式は? そしてそれがマイナスになる因子はなにか、とか。
今ここ現在として人がその社会を作りえたのはテクノロジーの発展によりますが、その確からしさの担保の揺らぎが起きている人類の問題はまたテクノロジーの問題であり、今わかっている知識と技術で解決していくしかありません。たとえ今に間違いがあったとしても、よりよい未来へと進むために。
人と社会とテクノロジーの密接した関係の解像度の高い書き方はこれぞ最新のSF小説と言う醍醐味で溢れていました。
以上。傑作。これぞ格好良いSFだと触れ回りたい。文句なしにお薦めです。
なお小松左京のあの作品とは確かに類似がありますが、それを広告とするとかなりはだはだネタバレではなかろうかと思うですがどうなんでしょうね。
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<同作者の既刊感想>
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公正的戦闘規範 感想
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